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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第三章 ノルオールの子たち
31/153

7

「しかし」

 カーライズ公が鉄扉へ近付いた。

「こんな大きな穴を空けるとなれば、例え魔法と言えどかなりな音がしただろう……」

「いえ、それが……」

 神官長が、言いにくそうに俯いた。

「誰も、何の音も聞いていないのです。どころか、ここへ出入りした者もおりません。この部屋は、神官が日に二度、掃除と通気のために開ける事になっております。時間は午前十一時と午後三時です。午前中は、通常では他の者は神官学舎の方で修練をしております。私も、神学生を教えるために学舎に行っております。

 午後は昼食を挟み、二時から一般の礼拝が始まります。ですので、三時に当番の者がここを開ける時には、この辺りには他に誰も居ないのが通常です。今は夏節祭で午前は皆礼拝所へ出ておりますが、当番の時間は変えておりません」

「では、魔法石が無くなっているのに気が付いたのは、三時の時に?」

「はい。当番の者が部屋に入ったところ、この様な有り様になっていたと」

「本当に、十一時から三時の間にここに誰も来なかったのですか?」

 カーライズ公が、神官長に念を押す。

 神官長は深く頷いた。

「間違いありません。十一時の時の当番の者は、確かにこの部屋に鍵を掛けて出ておりますし。それに……」

 突然、神官長の声を遮るように、部屋の外で怒鳴り声がした。

「離してよっ!」

「止めろってっ! ニーナミーナっ!」

 争っている声は、開いていた扉から中へ飛び込んで来た。

「神官長さまっ!」

 入って来たのは、若い女性の神官だった。

 白い神官服の肩に、癖の強い黒髪が掛かっている。黒目がちの大きな瞳は、いかにも勝ち気そうである。

 そのすぐ後ろに、パッド・ローエンが困った顔で立っていた。

 パッドがニーナミーナと呼んだその女性神官は、ずかずかと神官長の前へ進んだ。

「どうして私が言った事を、信じて下さらないのですかっ?」

「何の……、何の事だね?」

 神官長は、皺の深い顔に困惑を浮かべて彼女を見る。

 ニーナミーナは、顔を突き出すようにして言った。

「おとぼけにならないで下さいっ! 今日正午少し前に、神官長はこちらへおいでになってらっしゃいますっ! 私が、お客さまをお取次ぎして、神官長はそのお客さまにお会いになりました。それから、お祭りの礼拝がまだ終わっていないので、お客さまをこの部屋でお待たせするようにと、おっしゃられたんですっ!」

 ニーナミーナは、一気にそこまで捲し立てると、苛立った気を鎮めようと大きく深呼吸した。

 神官長はおどおどと、彼女の言い分に首を振った。

「いや……、いや。それは違うと、先程も言った筈です。私は、正午に誰も接客していないし、この部屋にも来ていない。

 いいですか、ニーナミーナ、あなたの記憶は間違っています」

「いいえっ!」

 ニーナミーナは激しく首を振った。

「私は間違っていませんっ! 間違っているのは、神官長、あなたですっ!」

「ニーナミーナっ!」

 掴み掛からんばかりの勢いで詰め寄る彼女の肩を、後ろからパッドが押さえた。

「離してってっ! パッドっ!」

「お客さまの前だって!」

「だから何なのよっ! 私は真実を知らせたいのっ!」

「だからって、今は……」

「いいえ。ぜひ真実をお聞かせ頂きたいですね」

 二人の言い争いに、クレメントが口を挟んだ。

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