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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第一章 魔法石の盗難
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3

 北国のランダスは冬が長い。寒さも厳しく、最北部では凍死者すら出る。海も河も凍り付き、陸は降り積もる雪で、森も村々も埋もれる。

 そんな厳しい気候の国だが、短い春から秋の間には、あらゆる花が一遍に咲き、たちまち緑が萌え出す。

 その、スピーディで美しい移り変わりは、正に生命の力強さをランダスの国人に教えてくれる。

 ロンダヌスのように南国の華やかさは無いが、素朴な美しい国、それがランダスだと、ジェイスは南までの旅をしてみてつくづくそう思うようになった。

 束の間、故国を思い出してぼんやりしていた彼に、シェイラが淡い笑みと共に尋ねた。

「帰りたい?」

「——いや」

 ジェイスは苦笑しながら、首を振った。

「帰る気は、まだねえよ。——まだ戻れっこないし」

「そうね……、連中、手ぐすね引いて待ってるでしょうしね」

 笑みを留めながらも、シェイラは、旅の間中忘れかけていた苦い思いが、再び込み上げてくるのを、感じていた。

 数多いるランダスの騎士の中でも、ジェイスは、国外でさえ知らぬ者がいない程の、有名な騎士である。

 二年前の内戦では目覚ましい功績を上げ、現国王から伯爵位まで賜った。

 本来なら、ジェイスは故国にあって摂政である兄の仕事を手伝わなければならない立場なのだが、それが放浪の剣士となり大陸の真反対の国まで旅して来たのには、ランダスの国内事情と深く関わりがある。

 あの時。

 ジェイスの腹違いの兄で、宰相のカーライズ公から一刻も早く国を出ろと言われたあの時、ジェイスは文句も言わず兄の言に従った。

 彼が悪いのではないのに、と、従者としてカーライズ公の館へ同道したシェイラは反発した。

 悪いのは、ジェイスを旗頭にして再び内乱を起こそうと企てている連中だ。

 だが、彼女の言葉を加勢に反論するでもなく、黙って兄カーライズ公の館を後にするジェイスに、結局シェイラもそれ以上言い立ても出来ず従った。

 今でも、ジェイスが追放同然で国を出なければならなかったのには、シェイラは従者としても、友としても納得していない。

 が、当のジェイスがそれでよしとしている以上、戻ってもう一度文句を言う訳にもいかない。

 よく言えばお人好し、悪く言えば立ち回り方が下手なジェイスに呆れながら、それでもシェイラはこの男から離れる気にはなれない。

 男として好いている訳ではない。

 多分、出来の悪い弟を放っておけない姉の心境なんだろうと、自分では分析していた。

「それにしても」

 その『不器用な弟』が、故国から話題を魔法石に戻した。

「危なくねえのかなあ。あんな、囲いも無い台座の上にちょこんと乗せて。ロープったってこんなん、外そうと思えば簡単じゃんか」

 祭壇の前には、侵入禁止の意に赤いロープが、二本のポールの間に渡すように張られている。

 しかしそれ以外、見張りの神官も兵士もいない。

「壇上に上がったら、俺だと台の上に手が届くぜ?」

 確かに、台座の足はかなり高く、下から二メートル以上はある。

 が、祭壇を踏み台にすれば、背の高いジェイスなら苦も無く小箱に手が届く。

 あまりな不用心さに、シェイラも少し呆れつつ、顎に拳を当てた。

「そうね……、盗人がちょっと背のある奴なら簡単ね」

「でも、実際には無理ですよ?」

 不意に背後から声がして、二人は驚いて振り向いた。

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