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「カスタ最後の王については、得心致しました。しかしそれだけでは、証拠が不十分であろうと思われますが。殿下は、なぜ賊がノルン・アルフルだと?」
カーライズ公が、峻厳な眼差しをクレメントに向ける。
クレメントは、カーライズ公の視線を、幽かな笑みで躱した。
「キリアン伯にもご同行願った場所で、ノルン・アルフル特有の魔法で描かれた魔法陣を発見しました。その魔法陣は、ウォーム神殿の石が奪われた直後に使われた形跡がありました」
「そこまでは分かったけどさ、その女神さま復活と魔法石は、どういう関係があるんだ?」
魔法を全く知らないジェイスは、ぞんざいだが的を得た質問を投げて来る。
クレメントは、この赤毛の剣豪の、兄とはまた違った鋭い目を、ひた、と見据えた。
「魔法石に関する伝説で誰もが知っているのは、古代カスタ王国で作られたという事と、カスタの遺跡にあったという事です。七賢者もその伝説を頼りに遺跡を冒険し石を見付けました。
しかし、持ち帰った賢者達も、石が広大な遺跡のどの辺りにあったのか、何のためにあったのかは語っていない。いえ、恐らく彼等は誰一人、石が何処のどんな場所にあったか、正確に話す事は出来なかったでしょう。
ライズワースは、古文書によるとカスタの中に呪文を発動させるための建物を造り上げたようです。その何処かにあの石は設置されていました。魔力を増幅する特性を持っているところから、恐らくあの石は建物の中でも一番呪力が集まるように作られた場所に置かれていたと思われます」
「では、あの石が無いと復活の呪文は完成しないのですか?」
ソルニエスが、大きな瞳を更に大きく見開いて、クレメントを見上げた。
幼い王の真っ直ぐな目の中に映る己の顔を見ながら、クレメントは頷いた。
「それを知っているからこそ、賊は魔法石を集めようとしているのだと思います」
「そんな話、殿下は何処でお知りになったんですか? やっぱりロレーヌ城の書庫?」
シェイラの問いに、クレメントは薄く笑った。
「そうです。ロレーヌ城はカスタ時代、離宮として建てられた城でした。そのせいか、あの城の書庫にはカスタの魔道書や史書がたくさんあります。
ところで魔道書は史書や伝説の本と違い、カスタの魔法文字という特別な文字で書かれている事は、シェイラさんはご存じですよね」
「ええ」
「魔法文字は、魔力を持つ者しか読めません。魔力の無い者がページを見ても、ただの白い紙です。ライズワースが記した『怒りの女神』復活の呪文は、魔法文字の上に、更にノルンア・ルフルの血を読み取るための選別の呪文が掛けられています。即ち、ライズワース王と同じ、ノルン・アルフルの血が一滴でも身体に流れていなければあれは読めないのです」
「と、いうことは、その書物をお読みになられた殿下は、ノルン・アルフルの血をお持ち
であると——?」
カーライズ公が、片眉をさも嫌そうに上げた。
クレメントは、公のあからさまな表情を「かもしれません」とさらりと流した。
「可能性はあります。現に読めた訳ですし。ロンダヌス王家には、カスタ時代も含め二度、スピルランドから王女が妃として嫁いでいますから」
ただし、と、ロンダヌスの王太子は付け加えた。
「僕にはノルン・アルフル特有の魔法は使えません。先程も申し上げた通り、彼等の魔法の痕跡を辿る事くらいは出来ますが」
「ちょっと待てよ」
ジェイスは、今更ながら首を捻った。
すみません、2も改稿しました。