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「ですので、名乗ろうかどうしようか、少し迷ってしまいました。その辺りが、キリアン伯とシェイラさんに、相当怪しまれた由縁です。ただ……、今頃国で心配しているかとのご指摘なら、大丈夫です。僕がふらついて二、三日姿が見えないのはいつもの事で、城の者は慣れてますから」
悪戯っぽく笑うクレメントに、ジェイスは盛大に顔を顰めた。
「自慢出来る事じゃあないでしょ、王太子殿下」
「と、いう訳で、ご迷惑でなければランダス国王陛下には、僕の探索をご許可願いたいのですが」
「それは、先程伯爵のお話に出た、魔法石ですか?」
ソルニエスの質問に、クレメントは真顔で頷いた。
「はい。実は、本日昼頃、ロンダヌスのウォーム神殿から、アルクスク大神官の魔法石が、何者かの手によって盗まれました」
クレメントは、これまでの経緯を、王とカーライズ公に説明した。
「そうだったのですか。それで、ランダスに」
「はい、賊がランダスに行ったという事は、次の狙いはランダス王の大剣かと」
「おいっ、そんな話聞いてないぞっ」
賊がランダスに逃げたから、追って来たのではないのか。
シェイラが腕を引いて注意するのを無視して、ジェイスはクレメントに詰め寄った。
「あんた、それ知っててここへ来たのか? 俺らを引っ張って?」
「ええ——すいません」
謝る王太子に、ジェイスは二度目の溜め息をついた。
「で? 何でロンダヌスの次にランダスの石なんだ?」
「全ての魔法石を集めるためです。ロンダヌスとランダスは、魔法石の在り処が、まず分かっていますから」
「魔法石を、集める?」
カーライズ公が聞き返した。
「 一体何のために?」
公に続けて思わず問いを口にしたシェイラは、従者の身で発言した事を恥じるように口に手を当てる。
ソルニエスは、笑顔でシェイラに頷いた。
「シェイラが言う通りです。クレメント殿下は理由をご存じなのですか?」
クレメントは、一瞬困惑したような表情をした。が、意を決したように話し出した。
「これは、あくまで僕の推測に過ぎませんが。賊の狙いは、カスタ最後の王ライズワースが残した、強大な呪文を完成させる事だと思います」
「それは……?」
「『怒りの女神』の復活呪文です」




