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一瞬、ジェイスは呆然となった。それはカーライズ公もシェイラも同じだったらしく、呆気に取られた顔で二人を見ている。
「陛下、それはまことに、ございますか?」
「はい。公は覚えていらっしゃいませんか? 僕の戴冠式の時、ロンダヌスから祝賀の使者がおいでになって」
「それは、覚えておりますが……」
「晩餐会の時、使者の方とお話したんですが、その時ロンダヌスの王太子殿下のお話が出て、使者の方が国王陛下と王太子殿下の細密画をお持ちだったんです。それを見せて頂いて、お顔を覚えていたんです」
「さような事が……」カーライズ公は、心底驚いたという表情で、口を噤んだ。
即位式の後の晩餐会は、ジェイスも覚えていた。ロンダヌスから祝賀の大使が来ていたのも知っていたが、ソニー王とそんな会話をしていたのは全く知らなかった。
クレメントは、幼い王の青い瞳に真正面から見詰められて、面映そうに顔を歪めた。
「よく、覚えていらっしゃいましたねえ。——すぐに名乗らずに申し訳ありません。ランダス国王陛下にはお初にお目もじ仕ります。僕はロンダヌスの王太子、クレメント・エディン・ダルタニスと申します」
クレメントは、ソルニエスの片手を取ったまま優雅に膝を折った。
「マジかよ……」
宮廷魔導師というのも怪しいとは思っていたが、まさかロンダヌスの王太子だったとは。
驚愕から、思わず呟いたジェイスを、クレメントは微笑んで振り返る。
「キリアン伯にも、ご迷惑掛けましたね」
確かにご迷惑さまだった。
二回も魔法で飛ばされて、尻餅はつくわ吐き気は酷いわ。
それというのも、敵の魔法にまんまとしてやられ、盗人に仕立て上げられたからだ。
が、あそこでクレメントが身分を明かしていれば、逃げ出さなくても済んだのではないのか。
ジェイスは改めて、どっと脱力する。
「いいけどさ。でも、最初に身分を言ってりゃ、魔法石盗難の犯人扱いはされなかったんじゃねえの?」
やけも半分で言ったジェイスに、カーライズ公とシェイラが同時に怒鳴った。
「ジェイスっ!」
「おまえはっ! 殿下に対し何という口の利きようだっ!」
「大体さあ、あんた王太子ならどーして大人しく城ん中に居られねえの。ひょこひょこ一人で神殿なんかに出入りして。今頃国じゃ殿下が消えたって大騒ぎしてんじゃねーの?」
「こらっ! 口を慎めっ!」
「俺は、事実を言ってるんですよ、兄上」
「言い方というものを心得よっ!」
「いえ、いいのですカーライズ公」
クレメントは、静かに首を振った。
「伯爵が怒られるのも道理です。僕があの時さっさと王太子であると告げていれば、お二人を巻き添えにする事もなかったのです。それに、おっしゃる通り、一人でふらついたり危ない事に首を突っ込んだりするのは、世継ぎのする事ではありません」
「そーだよ、分かってんじゃねえか」
「ジェイスっ、もうっ」
シェイラが彼の袖を引っ張る。
クレメントは苦笑した。
放浪癖のあるお世継ぎ・・・(汗)
ロンダヌス、大丈夫なんでしょーか?
いえ、大丈夫じゃないんです。