表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第二章 帰還
20/153

8

 三人はガトーに礼を言い、正門から続く石畳を進み正面入り口へと入った。

 玄関広間には、夏節祭の間にも関わらず陳情に訪れた地方官や商人などが、証明書を持って左側の窓口に長く列を作っている。

 神殿から来たという騎士は、ジェイスがガトー歩兵長と話している間に城内へと駆け込んだらしい。彼等が城へ入ろうとした時には、既に姿が無かった。

 早く事情を確認したい気持ちを抑え、ジェイスはシェイラとクレメントを促して広場中央の大きな円卓に寄った。

「思っていたより、随分と堅固な造りですね」

 クレメントは、感心するように周囲を見回す。

「正面門に警備兵が二人しかいないなんて、何と不用心な城なのかと思いましたが、まさか入り口までのアプローチの左右が兵舎だとは」

「ああ」

 円卓の上にある、来訪者が訪問理由を記入するための羽ペンを、ジェイスは手持ち無沙汰に弄ぶ。

「ヴィード城は、初代の王にして神であるイリヤが、ノルン・アルフルとの戦いのために建てた砦城が元だ。伝説によれば、当時はこの辺りにも多くのノルン・アルフルが潜伏していて、しょっちゅう襲撃があったとか。それを防ぐために、見た目より警護を重視した造りになってる」

「なるほど、そのために入り口近くに兵舎があるのですね」

「十代目まで使っていて、その後一旦、王都はティリア・ミラ——現在は無くなっちまったフィルバディアに移ったんだ。けど、二百年前、またここが王都になった」

「炎の魔女率いるアストランス軍との戦い……。二度目の七賢者の伝説ですね」

 ジェイスは、広間の奥、正面玄関の真正面に当たる壁面に目をやった。

 そこには、二百年前の大戦が、新たな壁画として描かれている。

 炎上し崩れ落ちるフィルバディア城を背景に、多くの人物像が書き込まれている。暗い色合いの画面の中央、小柄な少年の姿で描かれた当時の王の横に、水色の長い髪を靡かせた、長身の魔導師の姿があった。

 ケイト・クリスグロフ。女性名だが、れっきとした男性である。

 まだ十代の少年であったティルス・アーバイン王の要請でランダスに加勢した彼は、『水のケイト』と呼ばれ七賢者の中でも一番の魔力の持ち主だった。

 アーバイン王が即位して間もなく、闇の島カルーへ行ったきり行方不明となったと、ランダス史書には伝えられている。

 俗に言う『銀泥湖の悲劇』である。

 ケイトとの魔法戦に破れ、フィルバディアの地下に封印されていた、七賢者の紅一点、炎の魔女ファーレンの亡骸を、闇の島の神官にして同じく七賢者の一人エレクトラ・ラ・ニルが、こともあろうに嘆きの女神ディオール復活の儀式に利用しようと持ち去ったのだ。

 ニルを追って闇の島に入ったアーバイン王とケイトは、死闘の末ニルを倒したが、その時魔法によって銀泥湖に引き摺られそうになった王を助けて、ケイトはファーレンの亡骸と共に湖に沈んだ、と言われている。

 ただ、これはあくまで巷の物語であって、史書には水の賢者が闇の島で死んだ、とは書かれていない。

 そのケイトも、今、ジェイスの眼前にいる若緑色の髪をした若者と同じロンダヌス出身であり、同じく絶世の美男だったという。

 だが、横向きの壁画の顔は小さく、面影を鮮明に辿る事は出来ない。

 もしかしたら、ケイトはクレメントに似ていたかもしれない。

 同様の変わった髪の色から勝手にそう連想し、ジェイスはクレメントの美貌を見た。

 彼の視線に気付いたクレメントが、にっ、と口角を上げる。

「しかし、やはりあなたはただ者じゃあなかったんですね」

「……は?」

 いきなり自分の事を言われて、ジェイスは間抜けな声を出した。

「あなたが、かの有名な『英雄伯爵』ジェイス・キリアン伯でしたか」

「やっぱり、クレメントさんはジェイスの事、何かあると思ってたのね」

 シェイラが、ジェイスの横から顔を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ