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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第二章 帰還
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7

「どうやら、魔法石に関係ありですね」

 クレメントが、至極冷静な声で囁いた。

「もしかして、盗まれた……?」

 シェイラのその言葉に、ジェイスははっとなる。

 ロンダヌスとランダス。

 二つの国で同じ日に賊が同種の国の宝を盗むなど、偶然ではあり得ない。

 ノルン・アルフルの仕業というクレメントの説を内心半信半疑に思っていたジェイスだったが、この状況では本気で信じざるを得なかった。

 本当に、ただごとではない、かもしれない。

 ジェイスは、俄に胸騒ぎを覚える。

「おいっ!」

 不審な三人組に加え緊急の騎馬の登城で慌ている門兵の片方を捕まえて、ジェイスは珍しく怒鳴った。

「宰相カーライズ公に伝えよっ! 弟キリアン伯が緊急の用件があって帰還したとっ!」

「キ……、キリアン伯っ?」

 新米の門兵は、何がなんだか分からなくなって目玉をくるくると動かした。

「えー、あんたが?」

「そうだっ、とっとと言いに行けっ!」

 ジェイスの迫力に圧されて、新米兵は門の中へ駆け出す。

 その前へ、門外の騒ぎを聞き付けた兵士が数人、こちらへやって来た。

「どうした? 何かあったか?」

「歩兵長殿っ!」

 眼前に現れた上長に、新兵は慌てて姿勢を正す。

「神殿より火急の騎馬というのが参りましたっ。それから、宰相殿に取次げという不審者が……」

「不審者?」

 歩兵長は門の右脇に立つ三人の方へ足早にやって来た。

 黒い革鎧を付けた、髭面のがっしりとした剣士である。その人物を見て、ジェイスは思わず笑顔になった。

「ガトー歩兵長じゃないかっ!」

「これは……、ジェイス・キリアン伯っ?」

 歩兵長の言葉に、兵士二人が驚愕の面持ちで三人を見た。

 ジェイスは、一昨年の戦の時シェイラと同様『同じ死線を潜り抜けた仲間』に満面の笑みを向ける。

「いやあ良かった。名乗ったんだがこいつら信用しなくてよ」

「そうですか。しかし、伯爵は確か、大伯父であられるウィッグ候の館で、ご静養中だったのでは?」

 ジェイスが国を後にする際、兄カーライズ公が、ジェイスは病のため大伯父の館で暫く静養すると、周囲に触れ回ったのだ。

 無論、内戦の後の火種が燻っている状況で、殆どの王城関係者がカーライズ公の触れを額面通りには解釈していない。

 それでも、表向きは『病静養中』のジェイスは、曖昧に笑った。

「ああ——そうなんだけどな、ちょい野暮用で」

「野暮用、とは?」

「あーと……」

 魔法石盗難は、南の大国ロンダヌスにとって、間違いなく国家の一大事である。

 例え親しい相手でも、簡単に吹聴していい事柄ではない。

「悪い。今は歩兵長にも言えん」

 適当な言い訳が考えられず、ジェイスは誤魔化すためにわざと重々しい雰囲気を作った。

「とにかく、急ぎなんだ」

 ガトー歩兵長は、暫しジェイスの顔をじっと見、そして頷いた。

「解りました。——カウル」

 はっ、と、前へ出たのは、先程の歩兵の若い方の兵士だった。

「すぐに、キリアン伯のご登城を中へ知らせに行け」

 新米警備兵は、踵を鳴らし敬礼をすると、くるりと向きを変えて走り出した。

「程なく中から迎えが参りましょう。……今は夏節祭でお歴々もご不在です。取り敢えず城内へお入り下さい」

 夏節祭の時期、貴族達は新年初日の礼拝を済ませると、休暇と称して自領へ戻る者が少なくない。

 さすがに、先の戦の盟友である。ジェイスにとって顔を合わせては不味い面々がほぼ不在なのを、ガトーは把握していた。

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