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ジェイスは手を振ると立ち上がった。立つと更に威圧感の増す大柄な男に、兵士達は臆して後ろへ下がる。
「俺らは怪しいもんじゃないって。ただその……。ちょっと訳ありで」
どうにも説明の言葉が見付からない。
大体、選りによってどうしてヴィード城へなど着地するのか。
シェイラの言う通り、問題ありの面々にうっかりこの状況を見付けられようなものなら、それこそ大事だ。
ジェイスは、恨みを込めてちらりと後ろのクレメントを睨んだ。
ジェイスの事情を察しているのか、魔導師は、わざとらしいにっこり笑顔で見返して来た。
「だって、目標にしやすいところでしょう?」
「そりゃそうだが……」
「あちらだって、人気の無い場所より人の多い所を選びますよ。紛れ易いですから」
理屈はそうだ。
しかし、だからと言って、真っすぐ王城に来なくても良いではないか。
「まずいっ、ぜってー、ここは不味いっ」
呟いて、回れ右をしようとした男の袖を、クレメントが捕まえる。
「何処に行かれるんですか?」
「ってったって、王城には用もないのに入れないぜ?」
「そっ、そうよ。理由が無ければ、無理だわ」
シェイラもジェイスを援護する。
「用は、ありますよ?」
しかし、クレメントは二人の抵抗をけろりと無視し、門兵のほうへ振り向いた。
「あー、すいません。僕達見学者なんですけど、見学の許可って、何処で頂いたらよろしいんでしょうか?」
「見学者ぁ?」
祭時期に城の見学に訪れる者など、殆どいない。まして、空からやって来る見学者など、前代未聞だ。
門兵二人は、増々不振な顔になる。
嘘八百な理由を述べるなら、もうちょっと捻れよ、と、ジェイスが内心ぼやきつつ頭を抱えたその時。
ジェイス達の遥か後方から蹄の音が聞こえて来た。
何事かと、門前の人間全員が振り返る。
城下の道を飛ばして来たのは、黒駒に乗った若い騎士だった。騎士は門前まで全速力で馬を飛ばして来ると、急に手綱を引き締めた。
ジェイス達は、慌てて門の脇に待避した。
「緊急の用件で、国王陛下にお目通りを願います!」
ブレーキを掛けられて棒立ちになる馬上から、若い騎士が大声で述べる。
年嵩の門兵が、慌てて前へ出た。
「貴殿の所属はっ?」
「私はっ、イリヤ神殿警護の騎士パッド・ローエンっ! 神殿にて緊急の事態が起きたため、急ぎ登城しましたっ!」
門前で所属と用件を述べるのは、通常は下馬して行うものである。
が、急ぎの用件という騎士は、手順を踏まず、騎乗のまま口上した。
おまけに先刻、妙な連中が城にいれろと言って来たばかりでは、門兵は名乗りだけでは簡単に信用が出来なかった。
「緊急事態とは何事かっ?」
問い返されて、騎士は馬上から驚きの声を上げる。
「何とっ! 一大事だと申し上げているのに、門前で留め置かれるのかっ?」
「先程不審者が城内を窺っていたっ! 貴公もよもやその一味では……」
「心外ですっ!」
若者は叫んだ。
「私は間違いなく神殿警護の騎士ですっ! 神殿でお預かりしている七賢者の遺品に緊急の事態が起こったので火急参ったのですっ! 国の大事とも言える事、すぐに陛下にお取り次ぎをっ!」