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「アーカイエス」
クレメントは、改まった様子で黒い魔導師の方へ身体を向けた。
「目覚めてから、あなたにお話しすべきか考えていたのですが……。
これは、僕の個人的な感想なんですが、僕とあなたは、実はよく似ています。コインの裏表みたいに」
アーカイエスが、何のことだというように眉を上げる。
クレメントは続けた。
「カーナ姫の前で、あなたおっしゃいましたよね。その血のせいで自分は蔑まれ疎まれて来たと。僕も同じです。僕はトール・アルフルの血を濃く受け継ぎました。ロンダヌスという、他の国よりは魔導師が比較的多い国の王太子として生まれはしましたが、現在の大陸に七賢者クラスの魔導師など殆どいないのは、あなたもご存じと思います。ロンダヌスとて例外では無い。火球を作れるのがやっとという宮廷魔導師が大勢居る世の中に、城ひとつを簡単に破壊する魔力を持った子供が生まれたら、それはもう魔物の子供です。
僕はずっと、産みの母から疎まれていました。王太子だなどと、他に玉座を継ぐ男子がいないために仕方なく与えられている地位に過ぎません。父は、僕が玉座に即いたら国民が脅威に思うのではと、この魔力を懸念しています。重臣達には、『こんな化け物を王に戴いて大丈夫なのか』という恐怖の目で見られます。物心付いた頃から、僕は普通の人間として周りから見られた事は、一度もありませんでした。ずっと、孤独の中で生きて来たという点で、僕とあなたは同じなのです」
闇の子と光の子。
正反対の妖精の血を受け継いだ二人だが、周囲の人間から受けた仕打ちは、ほぼ同じだった。
悪い冗談のような互いの運命を初めて知り、アーカイエスは自嘲ぎみに笑う。
「……思い込みというのは、恐ろしいな。私は君が、トール・アルフルの血を濃く受け継ぐ王太子というだけで、間違いなく自国では厚遇されているものだと思ってしまっていた」
「誰でもそういう事はあります。事実、僕のこの魔力が羨ましいという人間もいました。けれど、これのせいで父母に嫌われている僕にとっては、強大な魔力などただただ疎ましくおぞましいものでしかない」
クレメントは溜め息をついた。
「……けれど、僕がどんなに自分の力を疎んじても、これが消え去る訳ではありません。カスタであれだけの力を使ったのだから、少しは無くなっているいるかと期待したのですが、僕の魔力は強まりこそすれ減じる事は全くありませんでした。
ならば、僕はこの力を引き摺って生きるしかない。
これからもっと、僕達のような強大な魔力を持つ者は減るでしょう。それも時の神の定めた事なら、致し方ありません。
けれど、僕達のような者がこの後に生まれた時、僕やあなた、そしてライズワースが味わったような孤独をその者達に味わわせないために、僕はロンダヌスの王として出来るだけの配慮をしておきたいと思います」
「クレメントっ?」
ジェイスは、王太子の宣言に思わず声を上げた。