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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十二章 王女の葬送
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9

「君が私を阻止して迷宮を破壊した直後に、ジェイスにかなり叱られたよ」

 アーカイエスは、まるで他人事のようにのんびりと言った。

 クレメントは少し驚いて顔を上げる。

「またどうして?」

「あの時、私の望みは完全に消え去った。ノルオール復活に全霊を賭していた身としては、その願いが潰えたのだから死を選ぼうと考えたのだが……。それが勝手だと、ジェイスに怒鳴られた。クレメントが命を投げ出してまで全力で私を阻止したのに、私には君程の覚悟が無かったと、ね」

 黒の魔導師は苦く笑む。

「ジェイスの言葉は当たっていた。私は、誰にも女神復活を止めさせないと言いながら、あらゆる所に自分の痕跡を残していった。それは、本心では誰かが私を止めてくれるのを期待してのことだ。そして、最終的に王太子、あなたが私を決死で止めた。

 ……私は、今猛烈に自分を恥ずかしく思っている。死を賭して阻止してくれたあなたに比べ、私は完全には本気ではなかった。それなのに、勝手にも事が成就しなかったからと、キリアン伯に自分を殺せと言った」

 俯いた黒い魔導師の手を、クレメントはそっと握った。

「誰にでも過ちはありますし、誰でも自分が一番可愛いのです。ライズワースがよい例でしょう。あなたは彼の王の轍を踏まなかった、それだけで、よいではありませんか?」

 アーカイエスの赤い瞳が一瞬大きく見開かれ、次に柔らかく細められた。

「そう……、だな」

 小さく言った魔導師に、クレメントは薄く笑った。

「……それにしても、カーナ姫は、千年の間どんな夢を見ていたのでしょう」

 クレメントの呟きに、アーカイエスは薄く笑った。

「さあ。石になった身で見られる夢があったのかどうか。……ただ、彼女が迷宮と共にいなくなった事で、これから先、私のような愚かなノルン・アルフルが現れなくて済む事は確かだ」

 石化を解いて王女を解放する手もあった。だが、父王に請われるままに怒りの女神の贄となる覚悟でいた王女が、突然の自由を簡単に受け入れたとは思い難い。

 あるいは突然放り出された千年と言う時間の空白に耐え切れず、恐らくカーナはやはり死を選んでいたかもしれない。

 アーカイエスが呟いた。

「思えばカーナ姫も、ライズワースの悪夢に囚われた哀れな犠牲者だったのだな……」

「犠牲かどうかは解りませんが……。けれど、カーナ姫が幸福であったとは、僕も思いません。だから、これでよかったのでしょう」

 クレメントの言葉に頷くと、アーカイエスは立ち上がった。

「済まない。目覚めたばかりの君に長居して無理をさせた。退散するよ。まだ暫くは私達もこの宿に泊まる。もう少し君が元気になったら、また話そう」

 彼等が部屋を出るのを見送って、シェイラが言った。

「さて、私達も食事、して来ようか?」

「そうね。——あーあ、真剣な話聞いて、お腹空いちゃった」

 ニーナミーナが、うーん、と伸びをする。

「大変だな、ニーナミーナが腹減ったと」

「何よジェイスっ、何が言いたいわけ?」

「おまえが腹減ったら、十人前は食うだろが?」

 半分笑いながら言ったジェイスに、ニーナミーナは膨れっ面で答えた。

「十人前なんて食べないわよっ、せいぜい五人前よっ」

「それって、五十歩百歩じゃない?」

「いえ、シェイラ。五人前と十人前じゃ、倍は違います」

 パッドも、半笑いになっている。

 クレメントが止めを刺した。

「ニーナミーナには、どちらも大差ないでしょう。どのみち十人前でも足りないでしょうから」

「ちょーっとおっ! もしもしロンダヌスの王太子殿下っ! あたしはそんなに食べませんっ!」

「宿屋のメニューを、毎回端から端まで頼まれる方が、食べないと?」

「それはっ、たまたまっ!」

「毎度のたまたまって、聞いた事無いわね?」

 シェイラの言葉に、パッドとクレメントが吹き出す。

「いーじゃないよっ、もうっ。人の事みんなでよってたかってっ! 怒ったお陰でもっとお腹空いちゃったでしょーっ!」

「あーもういいからっ! とっとと行ってこいってっ!」

 追い出しを掛けたジェイスに、シェイラが笑いながら「はいはい」と部屋を出る。

 ドアを開けながら、ふと女剣士は振り向いた。

「クレメント、何か食べられそう? なんなら食事作って貰って来るけど?」

「あー、そうですね。軽いものがあるなら」

「分かったわ」

 にっこり笑って、シェイラは廊下へ消えた。

 まだ膨れっ面のニーナミーナもその後に続いた。

 手の甲で笑い涙を拭きつつ彼女達を見送ったパッドが、席を立った。

「じゃあ、俺もちょっと出掛けて来ます」

ニーナミーナが混ざると、どうしても漫才になる・・・

それにしても、パッド、彼女をヨメにすると食費稼ぐのに大変になるぞ〜〜

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