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「クレメントっ!」
ジェイスは大股で寝台に近付くと、クレメントの顔を覗く。
クレメントは、ジェイスの焦げ茶の瞳に見詰められて、嬉しそうに銀の瞳を細めた。
「ご心配、お掛けしました」
「……全くだっ」
ジェイスは怒ったように言い、ニーナミーナが退いた側の寝台の端へどっかと座った。
「ったく、七日だぞっ。ほんとに死んじまったかと思ったぜっ?」
「すいません……」
「どんなに俺が……、俺らが心配したと思ってんだっ」
「ごめんなさい」
「そんな、起きた早々怒らなくったって」
シェイラが、苦笑混じりに主である伯爵を詰る。ばつが悪くなって、ジェイスは赤茶の頭を掻く。
「そうだけどよっ……」
「いいえ。皆さんにご心配お掛けしたのは事実ですし」
「ああ、うん」
「とにかく、これで一安心よね。——あ」
ニーナミーナが部屋の入り口を見て声を上げた。
そこには、一報を聞いてやって来たアーカイエスとララが立っていた。
中まで入ろうかどうしようかと迷っているような様子の二人に、シェイラは椅子から立ち上がる。
「入れば?」
シェイラに促されて、意を決したような表情で頷いたアーカイエスは、ゆっくりと寝台の側へ来ると、シェイラが譲った椅子に腰を下ろした。
「クレメント……」
迷宮内とは打って変わった、まさに憑き物が落ちたような静かな彼の様子に、クレメントは微笑む。
「カスタは、どうなりました?」
「地下迷宮は崩壊した。君の……、王太子殿下の魔力が、全て破壊してしまったよ。跡形も無い」
「そう……、ですか」
クレメントは深く頷いた。
「カーナ王女と、黒の魔法石は?」
「ジェイスに、ランダス王の大剣で斬ってもらった」
「お陰で、大剣の魔法石は粉々だしな」
ジェイスは、わざと渋面を作る。
「刃もがたがただ。あのままだと早晩折れちまう。セプティリア損傷だなんて、ソニー王に何て言い訳すっかな?」
「言いにくいならご一緒しますよ? 僕が事の仔細をお話ししましょうか」
いつものように悪戯っぽく微笑むクレメントに、ジェイスは安心して苦笑する。
「……でもこれで、魔法陣に関わる魔法石は全て無くなった訳ですね。残るは魔物を呼び出す赤の魔法石のみ」
「確かに」
アーカイエスは頷く。
「だがそれも、カスタのものは君の魔力が破壊してしまったようだ。カスタの上空には、いまや妖魔が徘徊する事で出来ていた雷雲も無い。遺跡を守るものは、居なくなった」
「それは——」
クレメントは、銀の瞳を大きく見開く。
「ただ、他の場所にある赤の魔法石については分からない。私が白の魔法石の補助に使ったのはレクとミュシャの丁度中間辺りにある、打ち捨てられた祠の中だ。他にも、ああいった祠がコルーガ山中に幾つかあると思われるしな」
「そうですか……」
ならば、コルーガの魔物はまだまだ徘徊するだろう。
だが、ひとつずつ丁寧に赤の魔法石を探し出し壊す事が出来れば、やがて魔物はいなくなる。
その話を、岩の上部落のリムに、帰ったら手紙で教えてやろうとクレメントは思った。