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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十二章 王女の葬送
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6

「それには……、及ばない」

 魔導師は、ララの手を借りて立ち上がると、己に残っていた魔力を振り絞って呪文を唱えた。

「ノルオールの血に従うものよ、来れ。妖魔召還」

 上げた右の掌から、上空へ青白い光が舞い上がる。

 やがて、上空に三つの巨大な影がやって来た。

 蝙蝠の翼に似た羽を広げた細長い姿は、間違いなくワイバーンである。

 空飛ぶ妖魔の中でも凶暴な種類に入る魔物の出現に、ジェイス達は緊張する。

 剣を抜いて構えるシェイラとパッドに、だがアーカイエスは薄く笑った。

「案じるな。あれは私が召還したものだ。ここから脱出するのは、我々の自力だけでは不可能だ」

「……ってことは、あれに乗るのか?」

 クレメントを抱えたまま上を仰いだジェイスに、アーカイエスはそうだ、と答えた。

「見た目程、乗りにくくはない。気絶したままの仲間がいるのだ、あれの方が早くていい」

「仲間、ね……」

 ジェイスは片頬を引き攣らせる。

「可笑しいか?」

「随分、変わり身がはええなって、思ってよ」

 彼の皮肉に、黒い魔導師は薄く微笑む。

「君達にしてみれば、散々自分勝手をした私に仲間呼ばわりされるのは迷惑かもしれなが……。昨日話し合った時にクレメントが言っていた言葉を思い出してね。『カスタの中では一蓮托生』だと。ならば、一緒にここまで来た私と君達は、やはり仲間かと思ったのだが……」

 ジェイスは、やっと人を信用しようとし始めた黒い魔導師に、心底の笑顔を向けた。

「やっと分かったかい、魔導師さんよっ」

 アーカイエスの指示で、ワイバーンはゆっくり降下する。

 三体の妖魔は、部屋の北側の、比較的瓦礫の少ない辺りに着地した。

 そちらへ移動しようと、クレメントを横抱きにジェイスが立ち上がる。

「キリアン伯」

 アーカイエスが呼び止めた。

 再びその名で呼ばれて、ジェイスはまた自分を斬れとかぬかすのかと、一瞬警戒する。

「頼みがある」

「……んだよ?」

「カーナ姫を……、葬ってやって欲しい。黒の魔法石ごと」

 ジェイスは、片眉を上げてアーカイエスを見た。

「……いいのかよ?」

 この石像と黒の魔法石が無くなれば、本当に二度とノルオール復活の儀式は出来なくなる。

 確認したジェイスに、アーカイエスは大きく頷いた。

「それが、私に出来る姫へのせめてもの餞だ」

 ジェイスは、アーカイエスの頼みを引き受けた。

 クレメントを魔導師に預けると、彼はランダス王の大剣を、今一度抜いた。

 まだ力の残っていた白の魔法石は、ジェイスの気合いに再び反応し、刀身を白く輝かせる。

 ジェイスは、魔力を帯びた大剣を手にカーナに向き合った。

 石化した姫は、何事も無かったかのような静かな微笑を浮かべている。

 ひとつ大きく呼吸すると、ジェイスは大きく剣を振りかぶる。

「でやっ!」

 気合いと共に振り下ろされた大剣が、カーナの首から胴を通り、黒の魔法石ごと真二つに分ける。

 魔法石を斬ったことで力を使い果たした白の石が、大剣の柄から割れて落ちた。

 カーナの像が、ぐらりと傾いて台座から落下する。

 石と化して千年の時間を地中で眠り続けた悲劇の王女は、掌に包んでいた魔法石と共に、今度こそ永久の眠りについた。

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