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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十二章 王女の葬送
144/153

4

「キリアン伯」

 呼ばれて、目覚めぬ王太子を抱いたままジェイスは黒い魔導師を振り向く。

「私を殺してくれ」

「——あ?」

「アーカイエス様っ」

 いきなり不穏な言葉を口にした魔導師に、ララが慌てる。

「どうして、そんな……」

「魔法石は砕け魔法陣も崩壊した。私に残るのは罪だけだ。ならば軍に引き立てられ拷問の挙げ句に獄に掛けられるより、この場で伯爵の刃でひと思いに死にたい」

「いけませんっ!」

 ファーレンの巫女は、蒼白になって叫ぶ。

「アーカイエス様が死なれるなんてっ! そんなっ、そんなっ……、駄目ですっ! 私は嫌ですっ!」

「ララ」

 アーカイエスは静かに言った。

「私はもう、これ以上生きていたくはないのだ。私の中には今や、何も無い……」

「いやですっ!」

 ジェイスはクレメントをパッドに預けると、ゆっくりとアーカイエス達の側へ寄った。

「……本気で死にたいのか?」

 見下ろす偉丈夫を、黒い魔導師の赤い瞳が見上げる。

 その目には、先刻までの狂気にも似た強さは、微塵も残っていない。

「ああ。本気だ」

「そうか」

 と言うと、ジェイスは大剣を抜き放った。

 遠ざかるカガスの淡い光を受けて、両刃の剣が冴え冴えと光る。

「止めてっ!」

 ララが、アーカイエスを背に庇い叫んだ。

「アーカイエス様を斬られるなら、先に私を斬って下さいっ!」

「退け」

 ジェイスは、必死の少女に魔王の如き尊大な表情で低く言った。

「嫌ですっ! 退きませんっ!」

「ララっ、退くのだっ」

 アーカイエスが、退けようと娘の細い肩を掴む。

「いやっ!」

 ララは、黒い魔導師の身体に逆にむしゃぶりついた。

「嫌ですっ! アーカイエス様が死なれるなんてっ、いやですっ!」

 ジェイスは、彼女の悲痛な声を無視して大剣を頭上に振り被る。

 これは本気だ、と判断したシェイラは、親友の何時になく非情な行動を止めようと動いた。

「ジェイスっ、駄目っ!」

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