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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十二章 王女の葬送
143/153

3

 三つの魔力の凄まじい破壊が起こる寸前、ララは全員に呼び掛けた。

「こちらへっ!」

 彼女の声に応じて、ジェイス達は急いでカーナ像の側へ寄る。皆が来るのを見計らって、ララは守備の神聖魔法の中でも最強の呪文を唱えた。

「聖殻光っ!」

 聖なる光は金色の薄い膜となり、全員を覆う。

 降って来る硝子と石壁の破片の量の多さを考えたニーナミーナが、更にその上へ別の神聖魔法を掛けた。

「聖破砕防壁っ!」

 触れて来るもの全てを粉砕する効力のある防御魔法は、彼等の上に降り注ぐ夥しい瓦礫の殆どを粉々に砕き、弾き飛ばした。

 ニーナミーナの魔法を突破した瓦礫は、ララの魔法に遮られる。

 神に仕える二人の魔法に守られたジェイス達が、漸く収まった地鳴りや倒壊に顔を上げた時。

 九つの硝子の塔もその地下の魔法陣も、何もかもが跡形も無くなっていた。

 気が付くと、カーナの像を挟んで、ジェイス達から少し離れた場所で、魔力を使い切った二人の魔導師が倒れていた。

「クレメントっ!」

 ジェイスは、ライズワースの杖をしっかり握ったまま横たわる王太子を抱き起こす。

「おいっ!」

 呼び掛けて、細い身体を揺さぶる。が、クレメントは死んだように動かない。

 シェイラとパッドも、心配げに彼の秀麗な面を覗き込んだ。

「ねえまさか……?」

「死んじゃいない。しっかり息はしているが……」

「アーカイエス様っ!」

 言い掛けたジェイスは、背後で悲鳴を上げたララを振り返った。

「アーカイエス様っ。しっかりなさって下さいっ!」

 ララは仰向いた魔導師の胸元に、顔を埋めるようにして身体を揺する。必死の彼女の上から、ニーナミーナがアーカイエスの顔を覗く。

「アーカイエス様っ!」

「大丈夫よっ。こんな事でくたばる奴じゃないわよっ。……あ、ほら、目を開けた」

 ニーナミーナの言葉に、ララは驚いて顔を上げた。

 薄く目を開けたアーカイエスは、涙で濡れた少女の顔を赤い瞳でじっと見詰めた。

「ララ……」

「ア、アーカイエス様っ……」

「魔法石……、は?」

 緩慢な口調に、ララは黙って首を振った。

 アーカイエスはゆっくり上体を起こし、完膚なきまでに破壊された塔を見回す。

 暫く言葉の無い彼に、ララが声を掛けようとした時。

「くっくっ……」

 不意に、黒い魔導師は笑い出した。

「——結局、こうなったか……」

 顔を俯けて笑い続けるアーカイエスに、ニーナミーナが怒鳴る。

「あったりまえでしょっ! 壊さなかったらノルオールが復活しちゃうじゃないのさっ!」

「またしても、悲願は適わなかった……」

「適って堪るもんですかっ。またしても、じゃなくて、もう絶対よっ。こんな騒ぎ、これっきりにしなさいよねっ!」

 腰に手を当て説教するニーナミーナの言葉が聞こえていないのか、アーカイエスは、まるで壊れた人形のように笑いながら身体を前後に揺らし続ける。

 彼の乾いた笑いが、崩壊した迷宮に空しく響く。

「アーカイエス様……」

 正気を逸したかのような魔導師の様子を、ララが悲しげな表情で見守る。

 ふっと、アーカイエスの笑いが途切れた。

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