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三つの魔力の凄まじい破壊が起こる寸前、ララは全員に呼び掛けた。
「こちらへっ!」
彼女の声に応じて、ジェイス達は急いでカーナ像の側へ寄る。皆が来るのを見計らって、ララは守備の神聖魔法の中でも最強の呪文を唱えた。
「聖殻光っ!」
聖なる光は金色の薄い膜となり、全員を覆う。
降って来る硝子と石壁の破片の量の多さを考えたニーナミーナが、更にその上へ別の神聖魔法を掛けた。
「聖破砕防壁っ!」
触れて来るもの全てを粉砕する効力のある防御魔法は、彼等の上に降り注ぐ夥しい瓦礫の殆どを粉々に砕き、弾き飛ばした。
ニーナミーナの魔法を突破した瓦礫は、ララの魔法に遮られる。
神に仕える二人の魔法に守られたジェイス達が、漸く収まった地鳴りや倒壊に顔を上げた時。
九つの硝子の塔もその地下の魔法陣も、何もかもが跡形も無くなっていた。
気が付くと、カーナの像を挟んで、ジェイス達から少し離れた場所で、魔力を使い切った二人の魔導師が倒れていた。
「クレメントっ!」
ジェイスは、ライズワースの杖をしっかり握ったまま横たわる王太子を抱き起こす。
「おいっ!」
呼び掛けて、細い身体を揺さぶる。が、クレメントは死んだように動かない。
シェイラとパッドも、心配げに彼の秀麗な面を覗き込んだ。
「ねえまさか……?」
「死んじゃいない。しっかり息はしているが……」
「アーカイエス様っ!」
言い掛けたジェイスは、背後で悲鳴を上げたララを振り返った。
「アーカイエス様っ。しっかりなさって下さいっ!」
ララは仰向いた魔導師の胸元に、顔を埋めるようにして身体を揺する。必死の彼女の上から、ニーナミーナがアーカイエスの顔を覗く。
「アーカイエス様っ!」
「大丈夫よっ。こんな事でくたばる奴じゃないわよっ。……あ、ほら、目を開けた」
ニーナミーナの言葉に、ララは驚いて顔を上げた。
薄く目を開けたアーカイエスは、涙で濡れた少女の顔を赤い瞳でじっと見詰めた。
「ララ……」
「ア、アーカイエス様っ……」
「魔法石……、は?」
緩慢な口調に、ララは黙って首を振った。
アーカイエスはゆっくり上体を起こし、完膚なきまでに破壊された塔を見回す。
暫く言葉の無い彼に、ララが声を掛けようとした時。
「くっくっ……」
不意に、黒い魔導師は笑い出した。
「——結局、こうなったか……」
顔を俯けて笑い続けるアーカイエスに、ニーナミーナが怒鳴る。
「あったりまえでしょっ! 壊さなかったらノルオールが復活しちゃうじゃないのさっ!」
「またしても、悲願は適わなかった……」
「適って堪るもんですかっ。またしても、じゃなくて、もう絶対よっ。こんな騒ぎ、これっきりにしなさいよねっ!」
腰に手を当て説教するニーナミーナの言葉が聞こえていないのか、アーカイエスは、まるで壊れた人形のように笑いながら身体を前後に揺らし続ける。
彼の乾いた笑いが、崩壊した迷宮に空しく響く。
「アーカイエス様……」
正気を逸したかのような魔導師の様子を、ララが悲しげな表情で見守る。
ふっと、アーカイエスの笑いが途切れた。