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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十一章 怒りの女神
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「クレメントっ、止めろっ! 杖を台座に差したら、取り返しがつかないんだぞっ!」

「そうよっ、止めてクレメントっ!」

 シェイラも叫んだ。

「目を覚ましなさいよっ、クレメントっ!! あんたほどの魔導師が、アーカイエスごときに負けるなんてっ、みっともないわよっ!!」

 ニーナミーナが、思い切りけなす。

「殿下っ!」パッドも悲痛な声を上げた。

「ニーナの言う通りだ。アーカイエスの術に嵌るなんて、おまえらしくねえぜっ。目を覚ませクレメントっ! 俺もみんなも、おまえを信じてるっ、いや、俺は……っ、俺は、おまえを愛してるっ。だからっ、目を覚ましてくれっ!!」

 ジェイスの必死の呼び掛けに、クレメントは蒼白の面を僅かに傾けた。

 だが、動きは止まらない。

「無駄だ」アーカイエスが、低く笑った。

「王太子は、今やバンシーと同化している。君達の声も聞こえておるまい。——さあ、クレメント。カガスの神気を集める最後の道具を、カーナ姫の背後の台座へ立てよ」

「クレメントっ!!」ジェイスは、声を限りに愛しい人を呼んだ。

 と、クレメントの足が、手が止まる。

「まさか、バンシーに抵抗しているのか?」  アーカイエスが、舌打ちし、僕の悪しき精霊に、クレメントを拘束し直すよう命令した。

「杖を、台座に差すよう、導け」

 バンシーが皺だらけの手でクレメントの腕を掴み、留まり掛けた身体を更に一歩、台座へ近付けようとした時。

「……そうは、行きませんっ…」

 クレメントが、渾身の力を振り絞って悪しき精霊の支配下から脱した。

 台座に向けられていた杖を無理矢理上へ持ち上げ、短く呪文を唱える。

「——光霊召還っ!」

 その刹那、彼の周囲が真昼のように明るくなった。

 見える者にはトンボの羽を背に付けた小鳥程の大きさの子供に見える光の精霊は、身に虹の輝きを帯び、くるくるとクレメントの周囲を巡る。

 万物を照らす陽の光そのものの具現である精霊の明るさに闇の精霊のバンシーは耐え切れず、支配していた王太子を放した。

 クレメントを取り巻いていた黒いもやが、悪しき精霊が離れると共に消え去る。

「うっ、く……」

 精霊の最初の閃光に目を焼かれたアーカイエスは、片腕で顔を覆って前屈みに身を折る。

「さすがは……、トール・アルフル。光の精霊を召還するとは……」

「召還したのは、実は初めてです。ただ、時折見えてはいたのでダメ元で呼んでみました」

 荒かった息を整え、クレメントはいつもの調子で話す。

「なるほど……」

 魔法で漸く目を治したアーカイエスは、顔を上げ相手を見据えた。

「だが、もはやそれもどうでもよい事だ。

 ——見るがいいっ」

 アーカイエスの指差す先を、クレメントは、はっと仰ぎ見た。

 ジェイス達も、何事かとカーナの真上の天井を見る。

 そして、誰もが短く驚愕の声を上げた。

「天井がっ……!」

いよいよ、クリスタル・パレスの仕掛けが動き出します。

カーナ姫の身体に、怒りの女神の魂が降臨してしまうのか?

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