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「あのねえ……」
「うおっ、この扉開かねえぞっ!」
二人の話はそっちのけで、扉の中を覗こうとしたジェイスは、びくともしない扉に驚く。
「鍵が掛かってる訳じゃねえよな?」
しげしげと祠の扉を眺めるジェイスに、クレメントが微苦笑を漏らす。
「ええ。どうしても開かないんです。僕も、解除の呪文やその他色々な呪文で何度も開けようと試みたんですけど。どうやらこの祠の神に仕えていた神官か巫女が、この神独特の呪文で封じたようです」
「ああそうか、そうなると、その呪文の仕組みが分からなければ開けようがないものね」
シェイラの補足に、クレメントは頷く。
「その通りです。シェイラさんはどうやら、随分魔法の勉強をなさったようですね?」
「昔ね。でも自分で使える呪文は、火球くらいよ」
「それでも、戦場では大変な武器でしょう?」
「ああ、そうだった」ジェイスが頷いた。
「シェイラの魔法のお陰で、結構味方は助かったぜ。何せ一遍に十人はふっ飛ばすからな」
「そんなことないわよっ、せいぜい五人よ」
褒められて、いささか面映いシェイラは、両腕を組んで、わざと真面目な顔を作った。
初夏の熱い風が、さわさわと草を揺らした。
ひとしきり話に区切りがついたところで、ジェイスは一番大事な事柄に思い当たった。
「っと、で、どうして、あんたこんなとこに、俺らをふっ飛ばしたんだ?」
「ああ」
クレメントは、よく思い出したなという顔でジェイスを見た。
「これです」
ゆっくりとクレメントが指差したのは、ジェイスの足元だった。
ジェイスは、クレメントの動作に釣られゆっくり下を見た。しかしその途端。
「おっわっ!」
「何これっ!」
ジェイスも、そしてシェイラも、白い大きな敷石の上に描かれた円の上に立っていた。
円の直径は、丁度大人の男一人が立って余裕で入る程である。
中には更に小さい円が描かれ、外円と小さい円の間に不思議な形の文字のような模様が、縁に沿って細かく描かれている。
小さい円の内側には、頭に角の生えた、人とも動物とも付かないものが一匹、描いてあった。
「これ、魔法陣よね……?」
恐る恐るそこから足を外に移しながら、シェイラがクレメントに訊いた。
「ええ」と、クレメントが頷く。
「でも、赤い魔法陣って、初めて見たわ」
「この線、血じゃねえの?」
先にさっさと退いたジェイスは、腰を折って、魔法陣の赤黒い線を眺める。
「そうです。これは魔法陣。しかも、血で描かれた魔法陣です」
シェイラが、顔を歪めて片手を口に当てる。
ジェイスは、気色悪さに、思わず唸る。
「うげっ、やっぱり」
「僕は、前々からこの祠がノルオール縁の神のものではないかと思っていました」
「ノルオールって、カガスに封じられた、怒りの女神の?」
クレメントは、シェイラに頷いた。
「でも、縁の神って……。ノルオールの兄妹は確かディオール。けど女神ディオールは闇の神カルーの妻だから、祠はグルゼ島にしかないんじゃ——」
「ディオールのものならそうです。これはノルオールの他の兄妹神の祠、と考えられます」
「他に兄妹がいたの?」
「雷神ギィウォース、炎神レギン、風神ユル、そして豪雪神ニール。しかしこの神々はウォームとの戦いに破れ、今は冥府の牢の中です。——この祠は、それらの神々の中の誰かのものと思われます」