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閃光は途中で凍気に代わり、氷の粒を纏ってジェイスに真っすぐ向かって来る。
ジェイスはララの忠告は聞かずに、己を凍り付かせようと向かって来る凍気に大剣を振るった。
ジェイスの闘気を増幅し刀身に纏い着かせた大剣は、魔法の凍気をいとも簡単に切り裂く。
刃に触れ霧散した己の術に、アーカイエスは一瞬驚愕の表情を作った。
「……なるほど。魔法石を闘気に反応させるとは。さすがにあなどれんな、ランダスの英雄殿は」
「へんっ。俺が最初じゃねえって。これをやったのは、かの伝説の国王陛下、ティルス・アーバイン王だ。『炎の魔女』に襲われた時に、王は魔女の魔法を打ち破るために、今の俺と同じ事をやって退けた。それが最初だって、ランダスの史書に書かれてるぜっ」
ニーナミーナの受け売りを、ジェイスはさも自分の知識のように披露する。
「そうか。それはこちらが勉強不足だったな。……では、君を葬るのは別の手にしようか」
アーカイエスはにいっ、と、暗い笑みを浮かべると、右手の人さし指と中指を揃え胸の前に立てた。
「……我が僕なる火霊よ、我が敵なる者を悉くその炎に包め。炎風」
呪文が完成するや、いきなり炎を巻き付けたつむじ風がジェイス達を襲った。
「うっわっ!」
ジェイスは風に向かって刀身を立てた。しかし、火霊の炎は古代語魔法で作られた炎とは違い、剣に触れても炎は消えない。
刀身を中心に二つに分かれ、後ろに下がったシェイラやパッド達まで巻き込もうと炎の風が舌を伸ばした瞬間。
「聖楯っ!」
ララが神聖魔法を唱えた。
火霊の起こした炎風が、ララの作り出した魔法の楯に阻まれ急速に勢いを失う。
「ララっ!」
アーカイエスが、険しい顔でファーレンの巫女を振り返った。
「何故邪魔をするっ?」
「もう……、もうお止め下さいっ!」
ララは可憐な面を悲痛に歪めて、訴えた。
「私は、これ以上、アーカイエス様が罪を重ねられるのを見るのは嫌ですっ」
「ならば、その場で目を瞑っていればよい」
「アーカイエス様っ!」
彼女は慕っている魔導師の前へ、必死の表情で回り込んだ。
「何故なのですかっ? どうして、あんなにお優しかったアーカイエス様が、こんな恐ろしい事をなさるのですかっ。私には、やっぱり分かりません。どうか、元のアーカイエス様にお戻り下さいっ」
「ララ」
アーカイエスは娘を見詰め、酷く優しい声で言った。