11
踊り場から下の階段は長い螺旋状になっていた。ジェイス達は、一挙に下まで駆け降りる。
下に着くと、上階と同じく短い通路を挟んだ先に、中央の部屋があった。
だが、部屋の前には黒い大きな扉が立ち塞がっている。
ジェイスは、金具の取っ手を掴み前へ押した。が、重そうな扉はびくともしない。
「ちっくしょうっ。また魔法かよっ」
「どうする? シェイラ」
ニーナミーナが不安な表情で年長の彼女に尋ねる。
「そうね、押してダメなら引いてみたら?」
言われて、ジェイスは今度は取っ手を引いた。しかし、結果は同じである。
「開けっ、て怒鳴っても開きませんよね……」
パッドが金色の頭を掻く。
「おもしれー事言うな。言ってみるか?」
ジェイスは大きく息を吸い込むと、思い切りよく怒鳴った。
「開けっ!」
と。
ぎいっという金属の蝶番を軋ませて、内側から扉が開いた。
「うそっ、マジに開いたわ」
ニーナミーナは、半分笑って口に手を当てる。
ゆっくり開く戸に焦れて、ジェイスは肩で押すようにして中へと入る。
円形の部屋の真ん中に台座のようなものがあり、その近くにアーカイエスが立っていた。
彼の正面にはクレメントが、身動き出来ない状態で蹲っている。
彼の周囲には、何やら黒いもやのような物が、薄く取り巻いていた。
「クレメントっ!」
「これは。さすがランダス一の豪傑。見事妖魔の大群を蹴散らして来られたな」
「きっさまっ! クレメントに何やったっ?」
アーカイエスは、勢い込むジェイスに低く笑う。
「私の言う事を聞いて頂けないのでね。ちょっと困らせているだけだ」
「んだとおっ?」
寄ろうとするジェイスを、だがクレメントは苦しみながらも大声で止めた。
「来てはなりませんっ! これは、バンシーですっ!」
「バンシー……?」
きょとんとするジェイスに、シェイラが言った。
「取り憑いた人間に絶望と悲しみを味わわせるという、悪しき精霊よっ」
「近付いたらジェイスも取り憑かれるわっ!」
ニーナミーナが、悲鳴に近い声で叫んだ。
「だったらどーすりゃいいんだってのっ!」
苛立って、ジェイスは片足を踏み鳴らす。
「精霊は、術者が死ねばその術から解放されるって聞いてるわっ」
「なんだって?」
「悪しき精霊を操れるのは、ノルン・アルフルのみよっ」
「ってことは……っ!」
シェイラの説明を聞いて、ジェイスは王の大剣を構えアーカイエスを睨む。
自分に切っ先を向けた剣士に、黒い魔導師は不適な笑みを見せた。
「ほう? 私を斬るというのか。ランダスの英雄伯爵殿は」
「おうっ、斬られたくないなら、クレメントから精霊を退けろっ!」
ジェイスは、相手の赤い目を睨んだまま、じりっ、と前へ出る。
アーカイエスの背後に立つララが、今にも悲鳴を上げそうな表情になっている。
黒い魔導師の右手が、ゆっくりと上がった。
魔法が来ると踏んだジェイスは、気合いを込めて柄を握り直す。途端、柄の先端に嵌められた魔法石がジェイスの闘気に反応し、王の大剣の刀身が白く輝き出す。
アーカイエスの掌から、鋭い閃光が迸った。
同時に、ララが悲鳴を上げる。
「逃げてっ!」