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「大丈夫っ?」
ニーナミーナと、彼女に魔法で解毒して貰ったシェイラが側へ来た。
見れば二人共、革鎧やこてで覆っていないところがあちこち切れている。
あれだけ夥しい数の妖魔と戦えば、掠り傷の十や二十は仕方ない。
「ご苦労さま」
「おう。……そっちは大丈夫か、シェイラ」
疲れ切ってぐんなりした顔で片手を挙げる。
と、女剣士は苦笑した。
「おかげさまで」
「あー、魔法石見事に真っ二つねー」
シェイラを支えたニーナミーナが、溜め息混じりに言った。
「しょーがないんだけどねえ。ちょっともったい無かったかも」
「ぶった斬れって言ったの、ニーナじゃないか?」
剣を納めたパッドが笑い含みに言う。
「まあ、そうなんだけど」
「それにしても、ニーナミーナ、よくあんなに連続して魔法唱えられたわね?」
面白そうに顔を覗かれて、ニーナミーナは眉を釣り上げた。
「シェイラさん、あたしだって神官ですから、あれくらいの魔法は使えますのよ?」
「あら、そうですの? それは大変失礼を致しました」
女二人は、惚けて顔を見合わせ、笑い出した。
「ったく」
ジェイスも釣られて苦笑いする。
「さて。いつまでもここで呑気にしてられねえな。——っしょ……」
立ち上がろうと手を掛けた瞬間、台座がずるりと向こう側へ滑った。
「おわっ!」
その下に出現した穴に、ジェイスは転がり落ちる。
「ちょっとっ! 大丈夫っ?」
シェイラ、ニーナミーナ、パッドは慌てて中を覗いた。
それは、下の階へと続く階段だった。ジェイスは、折れ曲がった階段の踊り場まで転がり、止まった。
「ったー……。ああ、何とか大丈夫だ」
シェイラが駆け足で降りて来た。
「何処か打った?」
「……頭を」
「ああ、それなら治す必要無いわね。少しは良くなったかも」
「あのなあ……」
冗談を言いながらも、女剣士は主の頭を指で触り、傷の有無を素早く確認する。
すぐに、ランタンを点けたニーナミーナが降りて来た。
「怪我あった?」
「いえ、大丈夫。段があんまり無いし。それより、こんな事くらいで怪我するような人間らしい身体してないわよ、この人は」
イリヤの神官は「そーだね」と吹き出した。
「ったくなあっ。何言ってやがんだってのっ。いてーのは俺だろーがっ」
「はいはい。で、お手柄のジェイスさん、これ、下へ降りる階段よ」
「おう。んじゃいっちょう、身勝手な王太子さんを助けに行きますか」
ジェイスは立ち上がる。
他の三人と頷き合うと、彼は下の階へ向かって歩き出した。
ユガーか、ジェイス・・・(汗)