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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十一章 怒りの女神
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6

 上階から魔法で下の階へアーカイエスを追って移動したクレメントは、目にしたものの異様さに声を失った。

 最下階に置かれたもの。

 それは、ひとつの椅子とそこに座った、十六、七歳の少女の像だった。

 誰かが侵入すると光る魔法が掛けられた周囲の壁からの白く淡い明かりを受け、やや俯いた少女は静かに微笑んでいる。灰色一色の像からでは色彩は判らないが、緩くウェーブの掛かった髪は、質素な形のドレスの胸元まで垂れていた。

 その脇に、ララを連れたアーカイエスが立つ。

 ノルン・アルフルの血を濃く受け継ぐ魔導師は、像の前で立ち竦むクレメントに侮蔑の視線を投げる。

 今や己の野望をあからさまに剥き出しにしたアーカイエスは、勝ち誇った調子で言った。

「そんなに、これがお気に召したか? 王太子殿下」

「——これは……」

「これも、お分かりにならないか。これはカーナ姫、カスタ最後の王女だ」

 クレメントは息を飲んだ。王宮の書庫でカスタ滅亡とライズワースの記述を読んだ際、確かにカーナという王女の名が出で来た。

 姫が父王の命令でノルオール復活の生け贄になったらしいという事は書かれていたが、まさかここにこんな形で彼女の像があるとは。

「この像は、何時からここに……?」

 クレメントの言葉に、アーカイエスは笑い出した。

「像だって? 本気でそう思っているのか?

 これは、カーナ本人だ。姫はカスタ滅亡の直前、ライズワースによって石化の呪文を掛けられたのだ」

 古代語魔法の中でも高度な呪文とされる石化は、現在の魔導師の殆どは使用出来ない。

 クレメントは書庫の魔道書の中でその呪文を見付け理論も知っていたが、使用した事は一度も無かった。

 無論、使用された例も、目にするのはこれが初めてである。

 こんなに綺麗に石となるとは。

 再び驚くクレメントを低く笑い、アーカイエスはララを離した。

「ライズワースは、如何にして己の望みを完結するか、神々に敗北させられる瞬間まで考えていたのだ。彼の他の子供や兄妹は皆、ウォーム配下の神々、特にイリヤによって殺された。だが、カーナだけはその難を、石化されるという形で逃れたのだ。

 逆に言えば、この最地下の空間だけは、イリヤにも手が出せなかったという事だ」

「それは……、多分違います」

 クレメントは、カーナを見上げながら言った。

「イリヤ神は、王女を哀れに思われたのでしょう。父の言うまま、女神の贄となる覚悟をし、更に石となってまでその意志を受け継ごうとした健気さを。

 僕や賢者ケイトがこの場所の封印を知らずに解かなければ、カーナ姫は神の御心のまま、永遠にこの地下に眠り続ける筈だった——」

 アーカイエスは鼻を鳴らした。

「イリヤの力不足か、慈愛か……。どちらにしてもカーナ姫はこのように黒の魔法石を抱いたまま迷宮に残った。ライズワースの決心の通り、ノルオール降臨の依り代となるべく、な」

 その時になって、初めてクレメントは王女が膝に乗せている手の中の物に気が付いた。

 灰色の彼女の中で、それだけは全く色の違う石。

 左右の手を上下に組み合わせた中に大事そうに包まれた石は、鶏の卵程の大きさで、多面に削られた黒い表面に、上階の魔法陣に反応しているのか金色の輝線が細かく走っている。

「上の階の魔法が発動した今、もう間も無く黒の魔法石が目覚める。目覚めた魔法石に、白の魔法石が集めたノルオールの『神気』が集中した時、怒りの女神は復活する」

「……あなたは、その知識を何処で得られたのですか?」

「知りたいかね?」

 銀の瞳を鋭くするクレメントに、アーカイエスは赤い瞳を細め、顎を上げる。

「ノルン・アルフルの里には、ライズワースが当時の長老に当てた手紙が残されている。彼は長老から密かにノルオール復活の条件を聞き、それを元にこの地下の魔法迷宮を造り上げた。

 私は長い間、その書簡の研究をしていたのだ。書簡は、万が一他人に見られてもそれと分からないように、互いに暗号でやり取りされていたので、それを解くのが難題だった」

「それで、あなたはその手紙の暗号を全部解読されたと?」

 アーカイエスは、僅かに眉を寄せる。

「大体は、だ。どうしても解けない部分もあったが、それは些末なもので、大方の、ノルオール降臨に関しての部分は解けた。

 ——だから、実行に移したのだよ」

 突然、カーナの手の中が光り始めた。

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