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アーカイエスは、黒い笑みを浮かべた。
「そう……、魔法石は全部で三種類ある。ひとつは七賢者が分割した白の魔法石。これはノルオール降臨のために必要な魔力を集めるためのもの。もうひとつは赤の魔法石。これは、地下迷宮を外部の馬鹿な人間共から守るため、魔物をこの大陸に撒き散らすためのもの。更にもうひとつ、黒の魔法石がある」
「黒の、魔法石?」
クレメントは首を傾げる。
「それは、どういう……?」
アーカイエスは低く笑っただけで答えず、手にした赤い石を台座の上に置いた。
石は、台座の上部に刻まれていた魔法文字に反応し、白く光り始める。
クレメントが足早に台座に近付く。台座から石を取り上げようとした刹那、魔法石がより強い光を発した。
「うわっ!」
圧を持った光は王太子の細い身体を突き退ける。後ろへ倒れそうになった彼を、ジェイスは飛び出して支えた。
「……やはり、私の推測は正しかった。ライズワースは白の魔法石の不測の事態に備え、赤の魔法石でも代用出来るように作っていたのだ」
石の光はジェイス達の間を、まるで障害など無いかのように突き抜け、通路の外側の水晶球へと当たる。
水晶は、魔法石の光を受けて虹色の光を放ち始めた。
それに呼応するかのように、ジェイスの背に負われたランダス王の大剣が、鳴動を始める。
「ジェイスっ」
気付いたクレメントが彼を見る。
被せた革袋を透かして光り始めた魔法石に驚いて、ジェイスは大剣を背から下ろした。
柄を握ると、手が痺れる程の振動がする。
アーカイエスが、さも愉快そうに笑う。
「どうやら、その石も本来の役割に加わりたいと鳴いているようだな。……どうだ? 光の中に投げてみては」
「……誰がっ!」
ジェイスは鳴る剣を宥めるように柄を握りながら、言い返した。
「もーうっ、あったま来ちゃうっ! 勝手に一人勝ちしたような笑い方すんじゃないわよっ!」
苛立ったニーナミーナが、魔法石を台座から取ろうと駆け寄る。
「駄目だっ!」
彼女の腕を、パッドが寸でで捕まえる。
「何するのよっ!」
怒鳴るニーナミーナに、パッドは意を決した表情で言い放った。
「俺がやる」
若者は台座へ寄ると、クレメントがしたように魔法石を取り除こうと手を伸ばした。
しかし、石はまたしても強い光で彼を威嚇した。
アーカイエスが嘲笑う。
「無駄だ。動き出した石は、もはや止める事は出来ない。——ララ」
呼ばれて、皆の後ろに隠れるように立っていたファーレンの巫女の少女がそちらへと動いた。
アーカイエスは、彼女をしっかりと腕に抱きかかえると、
「程なく、魔法石がノルオールの魔力を集め始める。君達はそこでじっくりと怒りの女神が復活するのを眺めるといい。
王太子、黒の石がどういう役割をするのかを知りたければ、私を追って来られるがよい。……ただし、あなたの大事な仲間が死に絶えても良ければ、な」」
ゆっくりと、黒い魔導師とララの身体が床下へと沈み始めた。
と同時に、台座に置かれた魔法石が、回転しながら浮上を始める。




