14
短い通路を、中央の部屋へと戻る。と、部屋の床が消えていた。
「おっわっ!」
先頭を歩いていたジェイスは、危うく通路から足を出しそうになって引っ込める。
床面の無くなった部屋に、光の魔法陣と台座が浮いている。下方を覗くと、下の部屋が魔法文字の間から切れ切れに見えた。
どう考えても、足場が無い。
「どーすんだよこれっ? 階段のある場所へ行かれねえぞっ」
「困りましたねえ」
苦笑するクレメントに、ジェイスは脱力する。
「って、それだけかよ……」
「にっちもさっちもね。水晶球、止められないの?」
シェイラの冷静な意見に、クレメントは首を振った。
「無理でしょう。一度発動してしまったら、余程の魔力でないと止まらない仕組みです。恐らく、ここが発動していた時にそれらを全て止めたのは、神々の力だったと思います」
大いなる神力に匹敵する魔力でしか、この地下迷宮の仕組みは止められない。
それが判っていて、何故クレメントは最後までアーカイエスに付き合おうとしているのか。
ジェイスは、本気で頭に来た。
「ちょっと来いっ」
クレメントの腕を掴むと、通路の奥へと引っ張る。
「危ねえのが判ってて、どうしてみんなに相談しない? 勝手に一人で突っ走っちまいやがって……。ニーナミーナやパッドまで危険に曝す気か?」
詰られて、王太子は銀色の目を見開く。
「それは……」
「あんたはどう思ってっか知らねえが、シェイラも、ニーナミーナも……、そっ、それにっ、俺だって、あんたを仲間だと思ってんだぞ? それを、何にも言わねえでっ」
「済みません」
クレメントは、目を伏せた。
「失念していた訳ではありません。僕の悪い癖です、どうしても他人が信用出来なくて。それでつい、一人で何でも決めて動こうとしてしまうのです」
「……判って、たけどよ」
「でも絶対に、皆さんを危険にはしません。それは大丈夫。ちゃんと考えていますから……」
ジェイスは苛立って、掴んだクレメントの、男にしては細い腕を振り回した。
「そーじゃなくってっ! 話せって言ってんだよっ! 自分だけで抱え込むなってっ!」
好きな相手の思っていることは、何でも知りたいし、多少無茶なことでも受け止めてやりたい。
「俺らはあんたに庇われたい訳じゃねえっ。一緒に何とかしたいってんだよっ」
「ジェイス……」
銀の瞳が潤む。クレメントが何か言おうと口を開き掛けた時。
「ジェイスっ、クレメントっ!」
通路の先からシェイラが二人を呼んだ。
急いでそちらに向かう。
「あっちっ!」
シェイラは、反対側、南の部屋の方を指差した。
そこにはアーカイエスとララが立っている。
「何だよ、あっちも終わって——」
「違うっ、足元よっ」
「え?」
目線を下げたジェイスに、アーカイエスの、例の人を小馬鹿にしたような声が掛かった。
「何を見ている? さっさと階下へ移動したらどうだ」
魔導師は、灰色の外套を翻すとララを促して光の魔法陣の上を歩き出した。
「……乗れるんだ」
「そのようですね」
「なあによ、悩む事無かったんじゃないっ。馬鹿みたい」
言うなりシェイラはぽんっ、と魔法陣の上に片足を乗せた。
「全然、大丈夫」
彼女はにやりと笑うと、さっさと東の通路へと歩いて行く。
「ほんと、俺らアホだわ……」
言ちて、ジェイスも紋様に足を乗せた。
ジェイス、ほんとアホです(汗)