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「ライズワースの王杖があんな場所にあったのでしょう? しかも、引き抜くと壁が崩れるようになっていたなんて」
「それは、逆だな」
アーカイエスが首を振った。
「王杖は壁を塞ぐために、あの台座に突き刺したのだ。多分神々が、魔法石を封印するために行った。
この杖は、ライズワースが所持していたもの。しかも持ち主を厳密に選択する魔法が掛かっている。ライズワース亡き今、杖が
次の主を選ぶとすれば、彼の王と同じ程の魔力を有し、しかもノルン・アルフルの血を受け継いでいなければならない。
その条件に当て嵌まるのは、ロンダヌスの王族だ。が大体、まともに考えれば王家に連なる者がこんな危険な場所に簡単に足を踏み入れる筈は無い。従って、あの台座から王杖が引き抜かれるなど、通常ならばあり得ない。
王太子殿下の行為は、正に神々が予想だにしなかった出来事だ」
黒い魔導師は、ライズワースの王杖を握り締めたクレメントを見る。その赤い瞳は、彼の正体を見抜いていると語っていた。
クレメントは、口の端を釣り上げて笑んだ。
「なら、反対側の封印を七賢者のケイト・クリスグロフが開けてしまったのも、神々にすれば想定外でしょうね。彼もまた、ロンダヌスの貴族で王家の血を引く魔導師でした」
「だろうな」
アーカイエスの肯定に、ジェイスを始め他の者は「なるほど」と納得する。
「って事は、七賢者の中に賢者ケイトが居なかったら、魔法石は世に出なかったって訳だ」
「そうです。恐らく先程ボガード達が傾れ込んで来た扉の向こう側に、この王杖のよう
な封印が何かなされていた筈です。それを、ケイト・クリスグロフが開けた……」
彼等が魔法石を見付け世に知らしめた事で、ノルン・アルフルが語り伝えたライズワースの迷宮が本当である事が証明されてしまった。
偶然の積み重ねが、ノルオールの子の子孫に邪悪な希望を与えてしまったのだ。
ジェイスとシェイラ、それにニーナミーナとパッドは、無言でアーカイエスを見た。
魔導師は、だが澄ました表情で立ち上がった。
「そろそろ、動いた方がよいのではないか?」
「そうですね」
クレメントも、生成りのズボンの膝に零れたパン屑を払って立ち上がる。
「この迷宮が、あとどのくらいの広さなのかも、まだ分かりませんし」
「そうだな……。行くか」
ジェイス達も立ち上がり、布袋を背に担ぎ直した。
もンのすごく久々に更新しました。すみません(汗)
まだまだ先がありますので、ちょっとずつでも頑張ります!!