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「さて、追っ手も巻いた事だし。俺らはこの辺で——」
「おや、どちらに行かれるんです?」
クレメントは、わざとらしく首を傾げる。
「って、別に何処でもいいだろ? あんたには関係ない」
少し苛立って、ジェイスは口調を荒げた。
「神殿での騒ぎがまだ続いてるんなら、俺らとあんたが一緒にいるのは目立つし不味いだろ? だからここらでさよならしよう」
「そうですか……。まあ、そういう考えもあるでしょう。でも、このままでは僕もあなた達も、魔法石泥棒の嫌疑を掛けられたままですよ? ジェイスさんはそれで宜しいんですか?」
「それは……」
大変宜しくない。
これからまだまだ旅を続けなければならない身の上として、常にロンダヌスの追っ手を気にしていなければならないのは、甚だうっとうしい。
考え込んでしまったジェイスに代わり、シェイラが口を開いた。
「じゃあ、あなたには何か方法があるっていうの?」
「簡単です」
クレメントはにっこりと笑った。
「犯人を捕まえればいいんです」
「そりゃ、簡単なこった」
ジェイスは呆れた。
「あのなあ。あの神殿の状況で魔法石を盗んだ挙げ句に逃げ遂せた盗人だぞ? そんなんどうやって探すんだよっ」
「心当たりなら、あります」
「は?」
「僕と、一緒に来て頂けますか?」
クレメントがジェイスの顔を覗き込んだ。銀の瞳が謎めいた光を帯びている。
ジェイスは一瞬、返答に詰まる。
と、クレメントの右手がくるり、と大きく輪を描いた。
その刹那。
ジェイスの足が、いきなり地を離れた。
「うっわっ!」
世界が、ぐるりと回転した。そのまま、もの凄い早さで景色が後ろへ流れる。
と同時に強い風が全身に当たり、息も出来ない程の圧迫感が襲う。
身体は完全に回転している。気分が悪く、吐きそうだ。
あとどれくらいこんな状況が続くのか。
「ぐわあぁぁぁ!」
我慢出来ずにジェイスが大声を上げた時、唐突にそれは止んだ。
どすん、という鈍い音を響かせ、彼は地面に落ちた。
「いってーっ!」
「きゃあっ!」
思い切り尻餅をついたジェイスの隣に、シェイラが落ちて来た。
「ったく、どーなってんだよっ……」
全く理解不能な出来事に、ぼやきながら周囲を見回すと、そこは先刻までいた娼館街とは全く違った景色が広がっていた。
クレメント、結構ハチャメチャです・・・