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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十章 地下迷宮
117/153

5

「もうひとつ台座があるっ」

 皆が、そちらへ目を移す。ジェイスは崩れた石を乗り越えその台座に近付いた。

「これは、そっちのとは作りが違うな」

 杖が刺さっていた台座は側面に精緻な紋様が刻まれているのに、こちらのものは何の飾りも無い。

 おまけに、台の上部には大きな亀裂が入っていた。

「……何か、でかい武器で斬り付けた痕だなこりゃ」

「もしかしたら、七賢者?」

 ニーナミーナが、目を輝かせる。

「かもしれねえな」

「こんなに近い場所にあったのね」

 シェイラも、壁の穴からそちらを覗いた。

「もしそうならここで、エレクトラ・ラ・ニルが死霊魔法を使って魔法石を割ったのね。凄い、私達その現場にいるんだ」

「歴史的瞬間、ですねっ!」

 パッドが興奮して、顔面を紅潮させる。

「七賢者が魔法石を見付けた場所が本当にここだとすれば、彼等は相当長い時間カスタに居た事になりますね」

「史実には無い話だわ」

 クレメントの指摘に、シェイラは驚く。

「昨日地図でも確認したけど、ミナイからここまではどう考えても十日は掛かるわ。……食料は携帯のもので何とかなるけど、水をどうしたの?」

「馬もロバも連れて入れないし……」

 ニーナミーナが、腕を組んで考え込む。

「ウォータープリンからは、上手く処理すれば水が取れる」

 アーカイエスが、面倒くさそうに言った。

 スライムと呼ばれる、骨も筋肉もない軟体系の妖魔の一種であるウォータープリンは、その名の通り、己の身体を維持する要素として大量の水を皮膜の内側に有している。

「奴らは生体維持のため、自らの身体の中に水袋を備えている。それを壊さないように殺せば、水の確保が出来る」

「うげえっ、魔物の体内の水を飲むのかよっ」

 黒い魔導師の説明に、ジェイスは本気で気持ち悪くなった。

 口に手を当てて大袈裟に身を折った大男に、クレメントが苦笑した。

「緊急の時ですね、それをするのは。七賢者の中にはトール・アルフルのサミアがいらっしゃいましたから、多分、水の精霊の力を借りたと思いますよ」

 精霊は、仲間が近くにいればすぐに分かる。

 例えば、水筒に水の精霊を入れて連れ歩けば、地下空間など水の確保が難しい場所でも精霊が仲間を探して呼んでくれる。

 ただし、こういう方法は精霊魔法に秀でたトール・アルフルにしか出来ない。

「人間の魔導師には不可能ですが、トール・アルフル達は何処に居ても必要な水や空気は、その方法で確保していたと聞きます。彼等が如何に自然に近い存在かという事が分かりますね」

「じゃあ、クレメントもそれが出来る訳?」

 ニーナミーナの質問に、クレメントは「どうでしょう?」と小首を傾げた。

「僕はそういった事に水の精霊を使役した事が無いので。もしかしたらやれるかも知れませんが、試す機会は今のところありませんねえ」

「そっか。そうよね、そんなにしょっちゅう危険な場所に来る訳無いし」

「ところでさっきの話だけど、ウォータープリンが居るって事は、他の魔物も居るってことよね? という事は……」

 シェイラの指摘に、ニーナミーナがはっとした表情になる。

「七賢者は、最後まで魔物に悩まされたって、伝説では語られてるわっ。って事は……」

「こっちは、魔物の巣か?」

 ジェイスの言葉に、皆が一瞬息を殺す。

 そばだてた耳に、地下通路を走り来る夥しい足音が聞こえる。

 地鳴りを伴う足音は瞬く間に近付き、身の毛のよだつ咆哮がその音に混ざる。

「——ボガードだっ!」

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