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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十章 地下迷宮
116/153

4

 東の塔に入ったジェイスとクレメントは、そこに中央のものと同じ形の台座が置かれているのを見付けた。

 クレメントが炎の魔法で作り出した握り拳程の火球に照らされた、三十センチ四方の台座の上面の真ん中には、突き立った形で棒状のものが埋まっていた。

 棒は、突端には八枚の花弁を持つ花の透かしが取り付けられ、その中に薄桃色の石が嵌め込まれている。

「これって……、杖だよなあ?」

「魔導師の杖でしょう。形と大きさから察して、カスタの王族のものではないかと」

「もしかして、ライズワースの王杖(おうじょう)だったりして」

 冗談で言った積もりだったが、クレメントは真顔でなるほどと頷いた。

「考えられます。でもどうしてこんな所に……?」

「え? ほんとにライズワースの王杖なのか?」

 ジェイスの驚きに、クレメントが「ええ」と小さく笑いを返した。

 思いの外、クレメントの笑顔が無邪気だったのに、ジェイスは鼓動の高鳴りを感じる。

 場所と場合をわきまえない己の恋心に狼狽しつつ、ジェイスは杖を覗き込んだ。

「なっ、何か仕掛けがあるんじゃないのか? 水晶球と同じで」

 言いながら何気なく指先で杖に触れた。

 その刹那。

 びいんっ、と、弓弦に強く弾かれたような衝撃が指先に走った。

「いってえっ!」

「大丈夫ですかっ?」

 痛みに大きく手を振った彼に、若緑色の髪の王太子は心配そうに走り寄る。

「大丈夫だ。……けど、何なんだこれ?」

「選別の魔法が掛かっているのでしょう」

「なら、あんたは大丈夫かもよ」

 クレメントという強大な魔力を持つ魔導師と同行し、魔法を数多く見るうちに、ジェイスは、何となく魔法がどんなものか分かって来ていた。

 もし本当にライズワースの王杖なら、そして選別の呪文が掛かっているなら、同じ血を持ち、かつ、同程度であろう魔力を有するクレメントは触れる筈である。

「そう、でしょうか?」

「多分な。今までもそうだったじゃんよ?」

 しかし、ジェイスの言は勘でしかない。もしかしたら、よりノルン・アルフルの血の濃い者——アーカイエスでなければ無理かもしれない。

 それでも、ジェイスは、戦場で一度も外れた事の無い自分の直感を信用する。

「大丈夫だって」と、躊躇うクレメントを、もう一度促す。

 王太子は、ジェイスの顔から杖へと目線を移し、そっと手を伸ばした。

 白い指先が、何事も無く透かし彫りの先端に触れる。

 ジェイスの勘は当たった。クレメントへの衝撃は、無い。

「抜いてみれば?」

 笑顔で勧めるジェイスに頷くと、クレメントは上部を握って上へ引く。と、杖は簡単に台座から外れた。

 クレメントの手に杖が納まる。その途端、台座が消滅した。

 やはり仕掛けがあったかと二人で納得した時、今度は東側の壁が音を立てて崩れる。

「うっわっ!」

 ジェイスは咄嗟にクレメントを抱いて、入り口の方へと飛び退いた。

 がらがらと音を立てて崩壊した石積みに、何事かと他の仲間がやって来た。

「どうしたの?」

 真っ先にやって来たシェイラが尋ねた。

「いや、台座の上に刺さってた杖をクレメントが引っこ抜いたら、台座が無くなってさ。その上壁が、この通り」

 ジェイスは、崩れた壁を指差した。

 シェイラは、術者が驚いても消えなかった火球に照らされた、くっついたままの二人ににやりとすると、壁と台座のあった辺りを交互に見た。

「……階段が、顔出してるわよ」

「あ、ほんとだ」

「おや、気が付きませんでした」

 三人が階下への階段を覗く。

 シェイラの後ろから部屋の中へ入った、明かり玉を連れたニーナミーナが、壊れた壁の向こう側を見て、「あっ」と声を上げた。

ジェイス、どさくさ紛れにクレメントを抱き寄せる、の図(苦笑)

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