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細い通路を抜け、広い部屋へと入る。
「……ここは、中央の塔の真下のようですね」
クレメントは、明かり玉の弱い光にぼんやりと浮かぶ全景を頼りに推測する。
周囲の形は中央の塔とは異なり、完全な円形になっている。
上の階の床面だった金属部分が、高い天井となって彼等の頭上にあった。
ジェイスは、周囲の壁に沿うように歩いた。
「殺風景な場所だな。さっきみたいな文字も書かれてねえみたいだし」
「台座があるわ」
シェイラが、部屋の中央に置かれた背の高い、黒っぽい石造りの台座に寄る。剣友の言葉に、ジェイスは台座へ近付く。
「何も乗ってねえな」
クレメントも、台座の側にやって来る。
「何のための台でしょうね?」
「さあてな。……っていうか、ほんとに暗いな、ここ」
ジェイスは、明かり玉の薄明かりのみの空間を、目を凝らして見回した。
「もう少し……、魔力を強めましょうか?」
おずおずと申し出たララに、ジェイスは「いや、いい」と手を振る。
「この先、何が起こるか分からねえし。魔力は温存しといた方がいいって。——それに、ここは、この台座以外には、何も無さそうだしな」
「南と西の方角の壁に、もっと暗い部分があります」
パッドが、出て来た通路を背に指差す。
「多分、別の部屋か通路かと」
「やはり、このままでは暗過ぎるな」
アーカイエスは、すっと右手を頭上へと上げた。
「——天を塞ぎし大いなる意志よ。我が血に潜みし同じ気の意志に従いてその楔を解き放て。天蓋解放」
すると、金属の天井が亀裂に沿って八方へと割れて行く。
きしみながら金属が割れる隙間から薄い光が差し込み、部屋の中をゆっくりと照らし出す。
やがて、すっかり天井が開いた。
薄明かりでははっきりしなかった台座の下の全体が、くっきりと浮かび上がった。
「そんなことが出来るなら、さっさと天井開ければいいでしょっ。ララの魔力を使わせてっ」
ニーナミーナが、ぽっかり開いた頭の上を睨みながら文句を言う。
「忘れていただけだ」と、アーカイエスはあからさまに恍けた。
相変わらずな二人のやり取りを聞きつつ、ジェイスとシェイラ、クレメントは台座に近寄る。
「……穴、開いてるぜこれ」
ジェイスは台座の上を覗いた。
「何か入ってたのかな? 水晶とか」
「水晶を入れるにしては穴が小さいわよ。違うわ」
シェイラの言に、クレメントが目を見開く。
「……これは、もしかしたら……」
ロンダヌスの王太子は、スピルランドの元宮廷魔導師を振り返る。
「ここに、元々は魔法石が乗せられていたのではないですか?」
「恐らく」
黒い魔導師は静かに言った。
「だが、そこに魔法石を乗せただけでは何も起こらないだろう」
「他の部屋に、何か仕掛けがあるかも知れないわね?」
ニーナミーナは、東側の通路を覗き込むと、光の呪文を唱え、ララのものより小さな明かり玉をこしらえた。
「この先に、何かあるわ」
「クレメント」
シェイラが王太子を見る。
「調べてみたら?」
「さっき、そこの旦那が言ってたように、この迷宮が何処まで壊れてないのか、確認する用もあるしな」
ジェイスも促す。
「そう、ですね」
クレメントは頷く。
「そういう事なら、私は西側を見て来る」
アーカイエスは、靴音を響かせて反対側へと消えた。
ララが、その後を追う。
ニーナミーナは、少女の背に何か言いたそうな表情を見せたが、そのまま黙ってシェイラの側へ来た。
「北側、入ってみる?」
掌の上に明かり玉を乗せたニーナミーナに、シェイラは「そうね」と頷いた。
「俺も行きますっ」
パッドが、置いていかれてはならじとばかりに、勢い込んで北へ向かって歩き出した。
小さく失笑しつつ、シェイラとニーナミーナも、彼の後についた。