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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十章 地下迷宮
114/153

2

 一行は階下へ降りた。

 そこはそれまでの硝子造りの建物とは一変して、石積みの部屋だった。

 クレメントは風霊を呼び、まず風の通りを確認する。新鮮な空気が通っている事を確かめると、ララに光の魔法で明かり玉を作るように頼んだ。

 ファーレン神殿の巫女が、右手の指を二本立て、軽く振る。と、直径十センチ程の小さな明かりが宙に浮かび、彼等が入った部屋の様子を映し出す。

 淡い光に照らされた丸く造られた石の部屋の周囲の壁には、細かな筆で魔法文字らしきものがびっしりと書かれていた。

「何の呪文?」

 近付いた明かり玉を頼りに、ニーナミーナがしげしげと文字を見る。

 側に寄り文字を読んだクレメントは、「違いますね」と言った。

「これは呪文ではありません。古代カスタ文字で書かれた碑文のようです」

「碑文ってことは、ライズワースが書かせたのか?」

 ジェイスは、細かい文字の一部に触れる。

「恐らく。この迷宮を訪れる事があるかも知れない者のために、己の真意を刻ませたのでしょう」

「『我、この地に生まれし事を悔やまん。願わくば暗黒の息吹を以て、この地浄化されん事を欲す』——」

「どういうこと?」

 低く呟いたアーカイエスに、シェイラが訊いた。

「ノルン・アルフルの間の口伝だ。この文には恐らく含まれている筈だ。

 スピルランドに追いやられたノルオールの子らは、怒りの女神の復活を願い、また自分達の勢力が盛り返すのを願ってこの言葉を残した。……今では夢物語だがな」

「そう言いながら、あなたはそれを信じていらっしゃるのではないですか?」

 クレメントの鋭い言葉に、アーカイエスは真顔で返した。

「だとしたら?」

「怒りの女神の復活は、何としても僕が止めます。例え、この身が犠牲になっても」

 ロンダヌスの王太子は、長身を硬い表情で見上げる。

 彼の危険な決心に、ジェイスは不安を感じる。

 アーカイエスはふん、と鼻を鳴らした。

「大層な決意だな。だが果たして言う通りになるかな」

「それってどういう意味よ?」

 ニーナミーナが噛み付く。

「私が、もし怒りの女神の復活を願っているとしても、この迷宮がウォーム神とその配下の神の手によって術を発動出来ないまでに破壊されていれば、それは適わない。

 尤も、私は女神復活を目論んでここに入った訳ではないが」

「では、何故?」

「この目で確かめてみたかったのだ。ライズワースが成そうとした愚行を」

 それ以上、ニーナミーナも何も言わなかった。

 ジェイス達は、アーカイエスの言葉がその通りだとは全く思ってはいない。

 だが今はまだ、彼を裁く時ではない。

 この迷宮の全体が、アーカイエスの言う通り、果たして何処まで使えるものなのか、それを確認しなくてはならない。

 その調査には、アーカイエスの強大な魔力はまだ必要だった。

 ジェイス達は押し黙ったまま、階段のある部屋を出た。

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