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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第十章 地下迷宮
113/153

1

 シェイラはニーナミーナとパッドと共に、北の塔へ、そしてジェイスはクレメントと東の塔へ向かった。

 小塔の底辺部の部屋は上部同様渡り廊下で中央の塔と繋がっている。

 廊下を通り東の塔の小部屋へ一歩踏み込んだ途端、白い光が部屋中に溢れた。

 アーカイエスは大丈夫と言ったが、万が一罠があった場合、すぐにでもクレメントを引っ張って飛び出す気構えのジェイスは、眩しい光にも必死で目を見張っていた。

 が。

「……なるほど。誰かが入ると呪文が解けるようになっていたのですね」

 クレメントが、頓着なくつかつかと中へ入った。

「残念ながら、ここには何も無いようです」

「ほえっ?」

 緊張が解れて、思わず間抜けな声が出てしまったジェイスを、クレメントが失笑する。

「そんなに笑わなくっても、いいんじゃねえの?」

 少しだけ恥ずかしくなって、非難すると、

「すみません。あんまりあなたが可愛らしい声を出したものですから……」と、王太子は尚も笑った。

「か、可愛らしいっ?」

 いかにもごつい巨漢ではないが、それなりに大柄な自分を捕まえて《可愛らしい》などと形容するとは。

 もしかしたら、クレメントはバリバリの攻めなのか、と、ジェイスは内心で身震いする。

 ——結婚なんかしたら、俺は完全に『妻』にされるのか?

「ちっとそれは、勘弁だなあ……」というジェイスのヘタレな呟きは、笑いをどうにか納めたクレメントには聞こえなかったらしい。

「次の塔へ行きましょう」

 柔らかい声に促されて、ジェイスは東の塔を出た。

 北西にシェイラ達が入ったのを見て、二人は北東の小塔へと入った。

 東の塔と同じく、入った途端に隠蔽の呪文が解ける。

 今度は光をまともに見ないよう、ジェイスは、素早く横を向いてやり過ごした。

「ありましたね」

 クレメントが部屋の中央の台座に寄り、上に置かれた水晶球に白い手を翳す。

 と、水晶の内側から青く淡い光が漏れ、球が台座から浮き上がった。

 水晶が離れた台座は、見る間に消えて行く。

 その下に、下方へ伸びる階段が現れた。

「へえ……」

 魔法の仕掛けの不思議さに、ジェイスは改めて感心する。

「と、階段が見付かったのをみんなに知らせましょう」

 二人は一度塔を出た。

 丁度、南西の塔からアーカイエスとララが出て来たところだった。

 クレメントは二人に声を掛ける。

「階段が見付かりました。北東の塔です」

「そうか」

 黒い魔導師は軽く頷くと、何処の塔で見付けたのか、手に持っていた水晶球を放り上げた。

「——浮遊(フロート)

 放られた水晶球が、彼の魔法でゆっくりと、更に上昇して行く。

「なん……、ですか?」

 アーカイエスの行為を、クレメントは訝しむ。

「南西の塔にあったのだ。水晶はこの床が開いた時の照明だ。あの、屋根近くの輪に設置する」

「……それは」

「ジェイスっ! クレメントっ!」

 王太子の言葉を、シェイラの声が遮った。

「階段、見付かった?」

「ああ。北東にあったぜ」

「じゃあ、行きましょ。……どうしたの?」

 上を見上げているクレメントに気付いて、シェイラが同じように頭上を見上げる。

「あの水晶?」

 彼女は、上昇して輪に納まる水晶に驚く。

「何なの?」

「アーカイエスが、照明だと」

「……本当?」

 ジェイスの説明に眉を顰めた女剣士に、アーカイエスは片頬で笑った。

「疑うなら、南西の台座を見てくればいい」

 シェイラはクレメントを見る。クレメントは大丈夫の意に軽く頷いた。

「……分かったわ。信用しましょう」

「では、階下へ降りるとしようか」

 アーカイエスは灰色の外套を翻して歩き出した。

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