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残された魔力の無い男二人と古代語魔法は使えない女性神官と巫女は、仕方無くその場に座り込んだ。
「ったくよお、この先ずっとこんなんじゃ、何の為にここまで来たのかわかんねえじゃねえの?」
まだ膨れているジェイスを、パッドが慰める。
「しょうがないですよ。ここはそういう場所なんですから」
「あーあ、暇になっちゃったから、お茶でもしよっと」
ニーナミーナは、背負っていた荷物袋を下ろすと、中から携帯用の茶器を引っ張り出した。
「おまえっ、そんなん何時仕入れたんだよ?」
組み立て式の小さな湯沸かし器のコンロ部分に、赤ん坊の握り拳程の、植物油を固めた固形燃料を入れるニーナミーナに、ジェイスは呆れる。
「昨夜。宿屋の売店で、食料と必需品の買い足しした時に、ちょっとね」
言いながら、ニーナミーナは火打石で燃料の点火用の紐に火を点ける。
樹脂の燃える独特の臭いが、辺りに広がる。
ニーナミーナは手早く水筒からポットに水を入れ、その中に茶葉をひと摘み放り込んだ。
「沸いたらみんなにも煎れるわ」
「……ほんとおまえって、妙な度胸があるよな」
こんな、何が起こるか分からないような場所で茶を煎れようという彼女の根性に、ジェイスは今更ながら感心する。
「そうね、緊急事態には慣れてるかも」
「それって、イリヤの神官としての心構えって事か?」
ニーナミーナは、少し寂しげな笑顔で「ううん」と首を振った。
「子供の頃の過酷な経験でね」
「ガキの頃?」
「あたし、孤児なの。ジェイスもよく知ってるだろうけど、ランダスの北部の冬って、酷いよね? あたしはブライアンの近くのニッセルって村に住んでたんだけど……。
十歳の冬に凄い雪が降って、村からブライアンまでの街道が雪で通れなくなっちゃったの。全くものが入って来なくなって。食べ物はまあ、自給自足の村だったから何とかなったんだけど、燃料が、その冬の寒さで底をついちゃって。村長さん始め、村の大人達が総出で雪の中、近くの森の木を切りに出たんだけど……。
その冬に限って妖魔が物凄く多くて、森に入った大人は全員、殺されたの」
普段明るいニーナミーナからは想像出来ない過去の物語を、ジェイスは内心驚きながら黙って聞いた。
「大人を殺した後、人間が縄張りに入った事に怒ったボガード達が夜、村を襲撃に来て、残ってた大人と村の神殿に駆け込んで。でも、ボガードは神殿の扉を壊して入って来たの。
あたしと二人の友達は、大人達の指示で神官様と地下の小さな食料庫に隠れたの。朝までそこでじっとしてた。
物凄く恐かったな、上で人の悲鳴とか、物が壊れる音とかしてて。一晩中がたがた震えてた。神官様はそんなあたし達をずっと抱えてて下さった。
朝になって、ボガードが居なくなったのを見計らって地下室から出た時には……。父さんも母さんも、他の人達も、みんな妖魔に殺されて、喰い散らかされてた」
「ニーナミーナ……」
パッドが、少し鼻を啜って上を向いた彼女の手に、そっと触れる。