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「一遍に確認出来る魔法って、ないの?」
「それは無いわね」
シェイラが苦笑した。
「……罠だとか、無いですか?」
心配したパッドに、アーカイエスは素っ気なく「ないな」言い切った。
「ここまで入れる人間は、そういない。更に魔法で仕掛けがしてあるには違いないが、既に選別はなされているのだ、わざわざ危険な罠を仕掛けるのは、通常考えて必要がない」
「まあ、ここはまだ結界内で妖魔もいませんから、ひとつずつ確認して行きましょう」
言うと、クレメントはさっさと一番近い右手の塔へと入って行く。
その背へ、ジェイスが怒鳴った。
「おいおいっ! 何処行くんだよっ?」
「何処って……、水晶を調べるんですが?」
判り切っているだろうに、何を訊くのかという顔で、クレメントは返す。
「って、俺らは他のとこへ回ればいいのか?」
「ああ——すいません。魔力が無ければ多分水晶に近付いても無駄です」
クレメントは、単に事実を述べただけだが、言われたジェイスは、その直裁な言い方にむかっと来た。
「じゃあ、どーしてろってんだっ」
低く唸った彼に、クレメントは表情を変えずに答えた。
「そうですねえ。取り敢えずそこで待ってて下さい」
アーカイエスは安全だと言ったが、魔法の罠が無いとは限らない。
魔法は魔力がなければ感知出来ないし、もし狭い空間でトラップが発動した場合、魔力の無いジェイスを完全に庇い切れるかどうか、クレメントには自信が無い。
好きな人を危険に曝すより、安全な場所にいて欲しいと思っての提案だった。
「はあ?」
だが素っ気なく用が無いと言われて、ジェイスは声を荒げた。
「そりゃねえだろーがっ! 何か手が要るだろっ、護衛とかっ?」
「必要ありません」
クレメントとしては、ジェイスの申し出はとても嬉しいが、敢えてにべもなく断る。
「なにいっ?」
それ以上言うべき言葉が見付からなくて、ジェイスは塔に入るクレメントの背を睨み付けた。
「ったくよお……」
愛しい人の素っ気ない態度は、結構ジェイスの自尊心を傷付けた。
ただ、側に居たかった、クレメントの手助けをしたかったのだ。
ぶつぶつ文句を言っている大男を横目に、アーカイエスが、
「こちら半分は引受ける」
と、クレメントとは反対側の塔へと動いた。
その態度に、嫉妬心がムラムラと涌いてくる。
「ちくしょうっ、魔力があるからって……」
ジェイスと王太子のやり取りに忍び笑いをしていたシェイラだが、思い立って声を上げる。
「あ、ねえっ! 魔力があれば何とかなるの?」
クレメントは、東の塔への入り口から顔を出して、
「古代語魔法が使えれば」と返した。
「じゃあ、私も手伝うわっ」
シェイラは一番奥の北の塔へと走って行った。
久々の次話投稿となってしまいました(汗)
まあだ、全員クリスタル・パレスの入り口でうついております。
もう少しすれば、中へと入るはず、です。