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中央の塔へ入る前に、クレメントは精霊魔法で、中に空気の通り道があるかどうかを調べた。
「古代語魔法だけじゃなくって、精霊魔法も使えたの」
ニーナミーナが、魔力のある者には半透明の女性に見える風の精霊と話しているクレメントに感心する。
「ええ。トール・アルフルの血のせいでしょう。火の精霊以外はある程度使役出来ます」
「風の精霊が使役出来るんなら、『悪魔の橋』も飛んで渡れたんじゃないの?」
シェイラが、「聞きかじり程度の知識なんだけど」と前置きして、風の精霊は使役者の求めに応じ、空中を運んでくれるはず、と突っ込む。
「シェイラさんの仰る通り、風の精霊は使役者や、使役者の指定した人間を掴んで飛行することが出来ます。けれど、あの『橋』の上では不可能でした」
苦笑いしたクレメントに、アーカイエスがふん、と鼻を鳴らした。
「『悪魔の橋』は、魔法の種類を制限する術が掛けられていた。あの上では、攻撃系と回復系の魔法以外は、威力が半減、あるいは無効化された」
「そう言えば……、皆さんに防御呪文を掛けたのですが、効きが悪かったように思いました」
ぽつり、とララが零す。
微かにアーカイエスの表情が曇ったのを見つけたジェイスは、この二人も色々大変だな、と、心密かに同情した。
程無くして、風の精霊は自分達の仲間が塔を出入りしている事を、クレメントに知らせてくれた。
新鮮な空気の出入りがあると分かり、一同は安心して塔へ入った。
一歩入った内部は、外よりもひやりとしていた。
中央の塔の中は、まるで王宮の大広間のような空間だった。広さはざっと百平方メートル程。外から見た構造と全く同じく壁面は八角形をしており、その壁のそれぞれに小さな塔へと通じる入り口が口を開けていた。
天上は吹き抜けで、屋根の細くなる手前の部分に、明かりを吊るすためなのか、八方から伸びる細い棒状の硝子で支えられた輪がある。
塔全体が硝子で出来ているため、まるで屋根が無いかのようにどんよりとした空がはっきりと見えた。
曇りでも光は入るので、松明や魔法の光を起こす必要の無いのは助かった。
硝子の渡り廊下で中央の塔と繋がった小さな塔は、それぞれが上に伸びる螺旋階段を持っていた。
階段を上り切ったところには台座が置かれてあり、そこに水晶球がひとつずつ、乗っている。
「へえ、こんな風になってたんだ」
ニーナミーナが、きょろきょろと周囲を見回す。
「隠蔽の呪文が解かれた時は遠かったし、橋では妖魔に追い立てられたからなあ。中がどうだなんて、ゆっくり見てる暇なんて無かったし」
ジェイスも、興味津々で外を取り巻く小塔を眺めた。
「で、あの水晶って、一体どんな魔法が掛かってる訳?」
ニーナミーナが、腰に手を当てて塔のひとつを顎で示す。
クレメントは首を捻った。
「さあ。調べてみないことには、判りませんねぇ」
「って事は、やっぱり、ひとつひとつ確かめるしか無いわよねぇ……」
イリヤの神官戦士は、はあ、と大きく溜め息をついた。