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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第九章 クリスタル・パレスへ
107/153

8

「ジェイスっ!」

 走り出そうとしたクレメントが、それに気が付いて足を止める。

 皆が対岸に近くなったために、橋全体が薄くなりかけている。

「ジェイスっ、早くっ!」

 愛しい王太子の切迫した呼び掛けを聞き、ジェイスはボガードの爪を寸でで避け、首だけ向けた。

「だーっ、無理だっ! いいから先に行けっ!」

「ダメですっ! あなたも早くっ!」

 クレメントは、ジェイスから離れた人狼に向かって雷撃を浴びせる。

 一体が首尾よく橋から落ちたが、もう一体がしつこくジェイスに襲い掛かる。

 ボガードの目を大剣で叩き潰し、何とか橋から蹴落としたジェイスは、右横から襲って来た魔物を、体を捻って交わした。

 素早く体制を戻しつつ、跳躍したライカンスロープの脚を横薙ぎに斬る。ギャアという悲鳴を上げ、着地し損ねた魔物が血飛沫を上げて落下した。

「ジェイスっ!」

 クレメントは、もう一度呼んではっと上を見た。

 先程の火球で上空に逃げていた小悪魔の群れが戻って来る。

 王太子は急いでジェイスの所へ駆け戻ると、太い腕を掴んでぐいっと引っ張った。

「なんっ……?」

「早くっ! 小悪魔の群れが戻って来ますっ」

 ジェイスは上を向いた。クレメントが言った通り、雲霞となった群れが急降下を始めている。

「ジェイスっ、クレメントっ!」

 橋の向こう、テラスの上でシェイラが叫んだ。

「早くっ!」

 ニーナミーナも呼ぶ。

 走り出した二人の背に、第一陣の群れが襲い掛かる。

「裂光弾っ!」

 ララが、数少ない神聖魔法の攻撃呪文を唱えた。呪文は上手く発動し、強烈な光の弾は二人の背後で炸裂した。

 仲間数匹が吹き飛び、再び邪眼鬼達が霧散する。その隙に、ジェイスとクレメントは橋の向こう目指して走り出した。

 彼等が足を上げる毎に、橋が消えて行く。

 体力のあるジェイスがクレメントの手を引っ張る。

 あともう少しで仲間のいる塔だという時。

 前方をガーゴイル二体が不意に塞いだ。

 一瞬、二人の足が止まり掛ける。

 ガーゴイルが、鋭い前肢の爪をジェイスの顔面目掛けて突き出して来る。

 橋は、躊躇する間もなく消滅して行く。ここで立ち止まれば、クレメントと二人、消える橋から落ちてしまう。

「ちっくしょうっ!」

 ジェイスはクレメントの手を放し、大剣の柄を握り直した。

「魔法をっ!」

 クレメントが術を使おうと手を挙げるより早く、ジェイスは大剣を振り被った。

「どっけぇっ!」

 目にも止まらぬ早業だった。彼は伸びて来た妖魔の片腕を斬り飛ばし、返す刃で頭を叩き割った。

 その直後、クレメントの炎が二匹目のガーゴイルの羽を焼く。

 おぞましい鳴き声を上げて墜落するガーゴイルを見届ける暇も無く、ジェイスはクレメントの腰ベルトを掴むと力任せにテラス目掛けて投げた。そして自分も、消える寸前の虹の橋を蹴って跳躍する。

 間一髪。

 クレメントはパッドに抱き止められ、ジェイスはテラスの床に転がった。

「あっぶなかったわねえっ」

「ひやひやしましたよっ!」

 上体を起こしたジェイスは、消えた橋の辺りを見返す。

 ガーゴイルが数体、まだ彼等を狙って向かって来たが、既にテラスには結界が張られており、妖魔の爪はこちらへは届かなかった。

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