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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第九章 クリスタル・パレスへ
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5

「どうした?」

 アーカイエスは、隣に立つララのほんのり赤く染まった顔を見下ろす。

 少女は俯いて「いいえ」と小さな声で答えた。

「ありゃりゃ、クレメントの告白にララが赤くなっちゃったわ」

 囃すニーナミーナの脇を肘で小突き、シェイラは咳払いした。

「さっきの話に戻すけど。ジェイスじゃないけど、私も塔なんて見えないわ。どういう事?」

「ああ、塔には『隠蔽の呪文』が掛けられている」

「……それだけ、ですか?」

 パッドが聞き返す。

「それだけだ」

「だーからっ! その呪文ってどーいうもんなのよっ!」

 先刻の恋バナでのはしゃぎっぷりは何処へやら。アーカイエスのぶっきらぼうな答えに、またニーナミーナが額に青筋を立てた。

 クレメントが、アーカイエスの言葉足らずを補足した。

「『隠蔽の呪文』は、その名の通り、ものを隠すための呪文です。大抵は宝物や誰にも見せたくない書物などに使いますが、それも限界がありまして。その術を掛けた魔導師より強い魔力を持った魔導師には、通用しないのです。

 で、あそこの塔ですが、あれに掛かっている術は、『隠蔽の呪文』の他に、特殊な選別呪文が掛かっていまして——」

「ノルン・アルフルの選別呪文か?」

 ここまでくればそれだろうと、ジェイスは先回りして言う。

 クレメントは笑って頷いた。

「はい。——という訳で、僕とアーカイエスには見えています」

「で? 私達にも見えるようには出来るの?」

 シェイラの、クレメントへの問いに、ジェイスは尤もという思いで頷いた。

 傭兵は足場の見当が付かない場所ではなるべく戦わない。命の保証が無いからだ。

 建造物の中での戦闘の場合は、出来れば先に見取り図などで構造を把握しておく。でないと、いざという時に逃げ場が分からなくて敵に追い付かれたり、危険な場所に出てしまったりする。

 クレメントは笑顔のまま「はい」と返した。

「術を解除しなければ、中に入れませんから」

「ライズワース自ら掛けた術だろうから、少々難儀ではあるがな」

「えっ、ライズワースって……。確かカスタの歴代の王の中でも一番魔力が強かったんじゃ……?」

 大丈夫なの、とニーナミーナがさすがに心配する。

「まあ、こちらは二人ですから、何とかなるでしょう」

 軽く言って、クレメントは術の解除に入るべく、目を閉じた。

 アーカイエスも、同様に呪文を唱え始める。

「……古き呪によりて隠されし尊き文物、我等の意志に従いて、再びその姿を現すべし。完全隠蔽解除」

 まるで昔からの友のようにぴたりと同じ調子で詠唱を終えると、二人は同時に片手の掌を黒雲に向かって上げた。

 その刹那、二人の手から白い光が現れ、帯となって黒雲にぶつかる。

 光は雲に一度吸収され、ややあって幾筋もの赤い閃光と絡まり合うように雲の中を上下に走る。

 轟音が、辺りを揺るがす。

 と、瞬く間に黒雲が白い煙と化し霧散した。

 現れたのは、上空の灰色の雲を突いて聳える、煌めく尖塔の群れだった。

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