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咄嗟に、ジェイスは隣にいたシェイラとララを庇って身を低くした。
鍵爪が、彼等の頭があった辺りの空を切る、筈だった。が、ガーゴイルの爪は門の手前で、まるで見えない壁に阻まれたかのように止まる。
「なにっ?」
素早く体勢を直し背の大剣を抜こうとしたジェイスは、音も無く自分達を守った『壁』に驚く。
己の攻撃が阻止されたのに怒って、妖魔が、狼が威嚇するような声で吠えた。
「大丈夫ですよ。この門には結界が敷かれています。妖魔は僕達に攻撃は出来ません」
クレメントんが朗らかに理由を述べた。
「んだよっ。だったら先に言えってっ! ったく、焦っちまったじゃねえかっ」
「あはは、すいません。……でも、今のはシェイラとララのお二人が羨ましかったですねえ」
「……え、あ? 何で?」
「だって、ジェイスは騎士として、お二人を庇われたでしょ。僕もして欲しかったです」
最後の言葉を、本当に残念と言う表情で言ったクレメントに、ジェイスは真っ赤になって脱力した。
真顔でコクられても、現時点の自分達の状況では、どうしても本気に取れない。
そのくせ、クレメントの美貌は破壊力抜群、なのだ。
「あー……、だから、本当にどっちなんだよ……」
ジェイスを好きだ、というのは、ジェスチャーなのか、真剣なのか?
男心を弄ぶな、と心中で叫びつつその場に突っ伏したジェイスに、クレメントは、けろっとした声で訊いた。
「え? 僕、何かいけませんでしたか? ただ単に思った事を申し上げただけですが?」
「ええっ? なになにっ、どーいう事それ?」
二人の会話が妙な方向に行くのに、ニーナミーナが目を輝かせた。
「二人って、そーゆー仲なの?」
「いや……。まだそんなことには——」
否定しようとしたジェイスを、クレメントの爆弾発言が遮る。
「ええ。僕はジェイスと結婚する積もりです」
「えーっ!! マジで?!」ニーナミーナの大絶叫が、北門の上に響く。
「……そーいえば、旅の間も随分仲が良かったような……」
パッドは、顔を引き攣らせながら呟いた。
訳知りのシェイラは、呆れながら首を振った。
アーカイエスは鼻白んで腕を組む。
ニーナミーナが、ますます嬉々として突っ込んだ。
「えーっ、私、気が付かなかったぁ。クレメントって、ジェイスが好きだったの? ジェイスも? そー言えば、ロンダヌスって、王族や貴族は男性同士の結婚もアリなのよねっ。結婚するなら相思相愛よねっ? っていうかっ、二人共そーいう趣味?」
下町の井戸端のおばちゃんもかくや。ゴシップ・モンスターと言っても過言ではなく捲し立てる。
「別に趣味というか。たまたま好きになったのがジェイスだっただけです」
美貌の王太子が、しらっと答えた。
ニーナミーナは両手で頬を押さえ、さも楽しそうに「うっそぉっ!」と叫んだ。
我慢ならずに、ジェイスは怒鳴った。
「だから信じるなってのっ! 何処まで本気だか分かんないだよっ、こいつはっ!」
「きゃー、こいつだってっ!」
「ニーナミーナっ!」
ジェイスとパッドが同時に嗜める。
あはは、と脳天気に笑う元凶の王太子の隣で、アーカイエスが唸った。
「いつまでやっている積もりだ……」
「ああ、申し訳ありません。ジェイス、ほら本題に戻りますよ」
「……ったくよお」
誰のせいで話が脱線したと思っているんだ。
こんなにどきまぎさせられて、割に合わないのは自分の方だ。
「俺のせいに、すんなっ……」
赤い顔でぶつぶつ文句を言いながら、ジェイスは先程アーカイエスが指した方向に向き直る。
ニーナミーナも、まだ含み笑いをしたまま、そちらを向いた。
ジェイス、すっかりクレメントの掌の上、です(苦笑)