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蝶々結び  作者: chiroru
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1.ほどけた結び目





駅のホームの風が、髪の短い襟足をやさしく撫でていく。ひんやりとした夜の空気に、少し湿った線路の匂いが混ざる。


電車が通り過ぎるたびに、線路の向こうで照明が少し揺れて見える。光が淡く揺れる様子は、まるで思い出の断片のように揺れ動き、結衣の胸に小さな痛みを残した。


橘 結衣は、会社帰りの人たちのざわめきに紛れながら、ぼんやりとホームの端に立っていた。

周囲の人々はスマートフォンを覗き込み、イヤホンから流れる音楽に合わせて歩く。

誰も結衣の存在に気を留めてはいない。

けれど、それでよかった。

人の目から離れている今、この数分間だけは自分の心を整理することができるのだから。


ふと、結衣はバッグについている紐に手を当てた。

小さな蝶々結びが微かに揺れる。


幼いころから、どうしても上手に結べなかった蝶々結び。

左右がずれて、何度やり直しても形が整わず、母に「またほどけちゃうわよ」と笑われたのを今でも鮮明に覚えている。

あの頃は、ほどけても"また、結べばいい"と思っていた。

何度でも、きれいに結び直せばいいと信じていた。


でも――大人になると、そう簡単にはいかない。

人間関係の結び目は、ほどけたらもう二度と元には戻らない。

そんな結衣の思いは、ふわりと舞うホームの風とともに運ばれていった。









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