世界でのルール
大田区の町工場から送り出される「規格化された奇跡」は、世界を震撼させるに十分すぎた。
日本国内のダンジョンが次々と「安全な採掘場」へ変貌を遂げる中、当然ながら諸外国、とりわけ「S級」という絶対的武力で覇権を握ってきた超大国は、静かなパニックに陥っていた。大田区でアメリカ合衆国最高峰のS級ギフテッド、アレックス・ヴァレンタインが「ただの一般人のロジック」に完敗し、拘束されたという極秘ニュースは、各国の首脳陣の背筋を凍らせるに十分だったからだ。
「超人の時代」から「工業の時代」へ。
そのパラダイムシフトの濁流は、ついに大田区の小さな町工場に、次なる巨大な歪みをもたらそうとしていた。
大田区の町工場。相変わらずプレス機の重低音が響く敷地内に、防衛省の高級官僚が青い顔をして書類の束を抱えて飛び込んできた。
「桐生君! 神崎さん! 大変なことになった!」
「……うるせえな、役人。今、白石姉さんが『C級魔獣の甲殻の分子配列』をデコードしてる最中だ。静かにしろ」
桐生悠真は、眼精疲労の目薬を差しながら、ホログラムディスプレイに並ぶ膨大なコードを睨みつけている。その横では、白石凛が金色に輝く瞳(真理観測)を限界まで見開き、白衣のポケットから不気味なほど大量の糖分を口に放り込んでいた。
「脳の糖分消費量が通常の400%を超えてるわ、悠真。……でも、見えた。あの甲殻、魔力伝導率が12%しかないと思われていたけど、特定の共鳴振動を与えれば『180%の超伝導物質』に化ける。神崎のオヤジ、次のプレス、圧力を3.2倍にして!」
「おうよ! 任せときな!」
神崎鉄也が『神域鍛冶』を発動し、蒸気を吹き上げるハンマーを振り下ろす。その腕は水城の『因果治癒』によるバックアップと、千春の新型「魔導ヒマワリ・ジェル」の改良によって、以前よりも遥かに高負荷に耐えられるようになっていた。
官僚は、彼らの常軌を逸した作業風景に圧倒されながらも、必死で声を張り上げた。
「アメリカ、EU、そして国連の安全保障理事会から、正式な『技術供与および共同開発』の超大型要請が来たんだ! 提示された予算は、我が国の国家予算の数パーセントに匹敵する。だが――彼らはこうも言っている。『もしこれを拒絶する場合、日本製の魔導武器を“世界の安全保障を揺るがす不確定要素”と見なし、経済制裁、あるいは最悪の場合、査察クランを派遣する』と!」
手を休めず、桐生が冷ややかに笑う。
「要するに、お利口な言葉で飾った『泥棒の脅迫』か。アレックスをあれだけ綺麗にハッキングしてやったのに、まだ上層部の老人たちは、自分たちの『武力』が絶対だと信じたいらしい」
「いいえ、悠真さん。彼らは怯えているのです」
水城透が、淹れたてのコーヒーを全員の机に置きながら、静かに告げた。彼の指先には、神崎や白石の「負荷」を肩代わりし続けたことで、微かに青い因果の残光がタトゥーのように定着し始めている。
「彼らは『神に選ばれた強者』が世界を支配するルールを守りたい。それを、僕たちのような持たざる凡人が、ただのノートPCとプレス機でひっくり返した。恐怖のあまり、なりふり構っていられないんですよ」
「だったら、見せてやろうじゃねぇか」
神崎がハンマーを肩に担ぎ、不敵に笑う。
「アメ公やヨーロッパの連中が、どれだけ逆立ちしても真似できねぇ、俺たちの『本当の製品規格』ってやつをよ」
一ヶ月後。彼らの警告を無視するように、国連およびアメリカ主導の「国際ダンジョン技術査察団」が日本に上陸した。
その実態は、世界各国のトップクランから引き抜かれたA級、そして生き残りのS級ギフテッド数名を含む、実質的な「技術強奪部隊」だった。
彼らが向かったのは、大田区の町工場ではない。政府が彼らを迎え撃つ場所として指定した、千葉県の広大な「未解放B級ダンジョン『房総地下樹海』」の入り口だった。
「ようこそ、諸国の英雄の皆さん」
防衛省の特設テントの前で、桐生悠真が一人、パイプ椅子に座ってノートPCを叩きながら彼らを迎えた。
査察団の先頭に立つのは、イギリス国籍のS級ギフテッド、アーサー・ペンドルトン。全身を純白の「魔導鎧(一点物の神話級遺物)」で包んだ、旧時代の象徴のような男だ。
「少年。挨拶は不要だ。我々は君たちの『魔導武器』の安全性を確かめに来た。……噂では、凡人に魔獣を殺させる悪魔の道具だそうだが、神の理に反する技術など、一瞬の暴走で自滅するのがオチだ。その歪みを、私が直々に正してやろう」
「そうかい。じゃあ、テストといこう」
桐生がニヤリと笑い、エンターキーを叩いた。
「B級ダンジョン、ゲート解放。――神崎のオヤジ、千春、白石姉さん、水城。……『プロジェクト・バベル』を起動して」
ダンジョンのゲートが開き、中からB級魔獣『タイラント・アイアン・コング(鋼鉄の巨猿)』の群れが、地響きを立てて溢れ出してきた。一体だけでも、並のA級探索者パーティが全滅するレベルの災厄。それが数十頭。
「ふん、この程度か。我が『聖剣』の錆にしてくれる」
アーサーが腰の剣を抜き、膨大な魔力を一瞬で爆発させようとした。世界を滅ぼす一撃の予兆。
だが、その直前。
「『豊穣の領域グレート・パレット』――指向性フィールド、展開」
ダンジョンの入り口の地面から、突如として無数の「鋼鉄の針」が飛び出した。藤堂千春が遺伝子操作し、神崎の神域鍛冶で分子構造を限界まで硬化させた『避魔のサボテン』だ。
その針が、大気中の魔力を凄まじい勢いで吸入・排出し始める。
「な、何だと……!? 私の魔力収束が、霧散していく……!?」
アーサーが目を見開いた。彼の放つはずだったS級の術式が、空間に展開された植物の「呼吸」によって完全に中和され、不発に終わったのだ。
「無駄よ。あなたの魔力波形は、神話級の遺物に依存した『直線的な出力』に過ぎないわ」
工場の地下室から、無線を通じて白石凛の声が響く。彼女の瞳は、数キロ離れたアーサーの遺物の「魔力回路」を完全にデコードしていた。
「悠真、敵の遺物の固有周波数は444ヘルツ。逆位相をアース線から流して」
「了解。――ハッキング、完了」
桐生がキーを叩いた瞬間、アーサーの着ていた純白の鎧が、「バチバチ!」と激しい火花を散らして機能停止した。重いだけのただの鉄屑と化した鎧の重量に、S級の超人がその場によろめく。
「馬鹿な……私の『聖鎧』が……!?」
「超人一人に頼るシステムなんて、バグ(エラー)一つで機能停止する脆弱なソフトウェアと同じだ。――さあ、僕たちの『製品』の性能を見せてあげるよ」
桐生が合図を送ると、防衛省が配備した、ごく普通の「自衛隊の普通科部隊(一般の兵士たち)」が一斉に前進してきた。彼らが手にしているのは、大田区の町工場がライン生産した最新の兵器群だった。
■ 『万物同調・連装魔導銃』
兵士たちが引き金を引くと、放たれたのは通常の鉛の弾丸。だが、その弾丸が空中を飛ぶ間に、銃身に刻まれた「魔導回路」と、神崎の合金が共鳴を引き起こす。
「ドッ! ドッ! ドッ!」と軽い音を立てて放たれた銃弾は、タイラント・アイアン・コングの「鋼鉄の皮膚」に触れた瞬間、その皮膚の分子結合を強制的に解放し、まるでバターをナイフで切るように、巨獣の肉体を易々と貫通していった。
■ 『因果定着・防護障壁』
巨猿が激怒し、凄まじい質量の一撃を兵士たちに振り下ろす。本来なら、一般人の肉体など衝撃波だけで消し飛ぶはずだった。
しかし、兵士たちが掲げた小型の盾から、青い幾何学模様の光幕が展開される。
「ドガァァァン!!」
直撃の瞬間、盾に内蔵された水城の『因果治癒』のログチップが「パチン」と弾け飛び、黒焦げになった。だが、兵士たちは傷一つなく、衝撃すら完全に相殺されていた。
「ログチップ交換! 次、来ます!」
使い捨てのチップをカチリと差し替えるだけで、一般の兵士がB級魔獣の絶対的な暴力を「ただの資材の損耗」へと変換し、無効化していく。
わずか15分。
査察団の目の前で、B級ダンジョンの大氾濫は、一人の死者も、一人の超人の力も借りることなく、システム化された「工業の力」によって完全に鎮圧された。
地面に転がった魔獣の死体からは、千春の植物の胞子が自動的に芽吹き、魔力を吸い上げて「最高級の魔力ポーション原液」へと自らを変えていく。ダンジョンそのものが、完全に管理された「工場」へと書き換えられた瞬間だった。
呆然と立ち尽くすアーサーたち諸国のギフテッド。彼らの「個の武力による支配」というプライドは、大田区の技術屋たちが作った「量産品」の前に、跡形もなく粉砕されていた。
桐生悠真は、ノートPCをパタンと閉じると、パイプ椅子から立ち上がり、アーサーの前に歩み寄った。
「理解できたかい。これが、僕たちの『ロジック』だ」
桐生は、青ざめた査察団全員を見据え、静かに、しかし世界を揺るがすほどの重みを持って告げた。
「あなたたちが神から与えられた『力』を自慢している間に、僕たちはその力の『取扱説明書』を作り、工場でライン生産できるようにした。……もう、選ばれた英雄が血を流して世界を救う時代は終わりだ。これからは、僕たちの作った道具を使い、一般人が朝のシフト制でダンジョンを掃除し、資源を回収する時代になる」
桐生は、懐から一枚のホログラム名刺を取り出し、アーサーの動かなくなった鎧の胸元に差し込んだ。
「技術を奪いたければ、どうぞ。ただし、僕たちのサプライチェーン(神崎の鍛造、白石の解析、水城の因果、千春の植物)のどれか一つが欠けただけで、その武器はただの爆発物に変形するコードを仕込んである。……僕たちと対等な『ビジネス』がしたくなったら、大田区の町工場に、正式な契約書を持って並ぶことだ。もちろん、下請け(日本)を叩くような真似はナシでね」
そう言って、桐生は背を向け、工場のメンバーが待つハイエースへと歩き出した。
遠く大田区の方角から、微かに、しかし力強く、コン、コン、とハンマーが鉄を叩く音が聞こえるような気がした。
神がもたらした終末のシステム(ダンジョン)を、人類の知恵という歯車で完全にハッキングし、手懐ける。
大田区の町工場から響くその音は、もはやただの作業音ではない。
新たなる人類の、文明の産声そのものだった。
そして、世界がこの巨大な兵器への扱いを決めるために霞が関の国連特別会議場では、雛壇に座る桐生悠真、白石凛、水城透の3人を、世界各国の首脳やトップクランの代表たちが冷や汗を流しながら見つめていた。
「――以上が、我が『神崎鉄工所コンソーシアム』が提示する、今後の世界秩序における兵器運用のガイドライン、通称『大田区プロトコル』の全容です」
桐生がプロジェクターの画面を切り替えると、そこには驚くべき文言が並んでいた。
条項1: 基本設計データ(ソースコード)の開示は一切行わない。
条項2: 魔導兵器はすべて「リース契約」とし、所有権は大田区の町工場に帰属する。
条項3: 万が一、この兵器を悪用、またはリバースエンジニアリング(解析)しようとした場合、遠隔で製品内の魔力回路を暴走させ、半径1キロメートルを更地にする。
「横暴だ!」
アメリカ国防長官が机を叩いて立ち上がる。
「これでは世界中の軍隊が、大田区の一町工場の『利用規約』に縛られることになるではないか! 我々は神に選ばれたS級ギフテッドという絶対的武力を持っているのだぞ!」
「まだ理解していないようですね」
水城透が静かにコーヒーをすすりながら、冷徹に告げた。
「そのS級ギフテッドを『バグ』として処理する兵器の引き金を、今や一般の兵士が握っている。あなた方が規約に従わないと言うなら、我が工場は明日から一切の製品の出荷を停止し、交換用魔導チップの供給を断ちます。……ダンジョンの大氾濫を、またあなた方だけで防ぐ自信がおありで?」
長官は言葉を失い、崩れるように席に座り直した。
こうして、世界の軍事方針は「超人による支配」から「大田区の仕様書による管理」へと完全に決定づけられた。
「方針は決まりましたね」
桐生が不敵に笑う。
「では、これより民間への『お披露目』といきましょう。世界中の金持ちと探索者を集めた、大規模オークションの開催です」
数日後。舞台はアラブ首長国連邦・ドバイの超高級ホテルの大極上ホールへと移った。
方針決定会議を経て、大田区の魔導兵器の「初期ロット(先行量産型)」が民間向けに一般競売にかけられるとあって、会場は世界中の大富豪、巨大投資ファンドのCEO、そして一攫千金を果たしたトップ探索者たちで埋め尽くされていた。
「おい、あれを見ろよ。世界ランク3位のクラン『レヴィアタン』のリーダー、ジャン・ローランだ……!」
「隣にいるのは石油王のアルマーン殿下か? 動く金額が桁違いすぎるだろ……」
会場が熱気に包まれる中、壇上に水城透が立つ。彼の後ろには、厳重にロックされたアタッシュケースが並んでいた。
「皆様、ようこそ。これより、大田区・神崎鉄工所が誇る最新の『魔導デバイス』の先行独占リースの競売を行います。なお、決済は通貨に加え、本日限定で『高ランクダンジョン産の希少資源』による上乗せ入札を認めます」
■ 第1品:広域環境調教デバイス『豊穣の福音・カプセル』100基
「散布するだけで、周囲の魔獣の魔力を『肥料』として吸い尽くし、自動的に有毒ガスを浄化する防壁森林を形成。さらに高純度ポーションを自動精製する、クラン運営に必須の環境兵器です」
水城の説明が終わるや否や、最前列の老紳士が即座にパドルを挙げた。
「5億ドル(約750億円)!」
世界的な巨大資源コンツェルンのCEOだ。
「我が社が保有するアフリカのダンジョン全域の採掘権の30%も上乗せしよう!」
「甘いな、色ボケの老人が」
冷ややかな声と共にパドルを挙げたのは、漆黒の戦闘服を着た美貌の女性、A級探索者クラン『黒百合』のリーダー・氷室冴子だった。
「『6億ドル』。それに加え、先月我がクランが命懸けで攻略したA級ダンジョン最深部産『氷結魔獣の心臓』を3つ出すわ。これで、うちのクランの若い子たちの生存率を買わせてもらう!」
「氷結魔獣の心臓……! 千春さんのバイオ研究に最適な素材ですね」
水城がハンマーを叩く。
「落札! 『豊穣の福音』初期ロットはクラン『黒百合』へ!」
氷室冴子が不敵に微笑む。これで彼女のクランは、世界で最も「安全に稼げる最強のクラン」になる切符を手にした。
■ 第2品:局所慣性中和型『神威の楔Mark-II』50本セット
「投擲するだけで、半径50メートル以内の対象の重力を、局所的に5倍から50倍まで可変・固定します。あのS級ギフテッドを無力化した技術の、民間用調整モデルです」
この出品に、会場の空気が一変した。超人を自分の手で叩き潰せるかもしれない兵器。
「10億ドルだ!!」
中東の石油王、アルマーン殿下が立ち上がる。
「それに加え、我が国が備蓄している最高純度の魔導銀原石を50トン、さらに大田区の神崎鉄工所へ専用の超高精度プレス機を10台、即日空輸する!」
「12億ドル!」
対抗したのは、アメリカの巨大IT企業のCEOだった。
「我が社の誇る量子コンピュータの演算リソースを、白石凛氏の解析データ用に生涯無償で提供する!」
「いや、アルマーン殿下の『プレス機とミスリル』の方が、神崎のオヤジが喜びます」
桐生がインカム越しに水城へ指示を出す。
「――落札、アルマーン殿下!」
水城のハンマーが響く。石油王は満足げに深く頷いた。世界最強の超人たちをいつでも圧殺できる「神の楔」が、大田区の職人の都合によって、一国の大富豪の手に渡ったのだ。
■ 最後の出品:因果兵器『レトロ・アクティブ・バスター』プロトタイプ1丁
「最後は、私、水城の『因果治癒』の概念を攻撃へと逆転させた兵器です。対象が『過去15分間に得た魔力的な強化や肉体再生の履歴』を強制リセット。または『その間に受けた全ダメージのログを一瞬で現在に累積・倍加して定着』させます。どんな不死身の魔獣も、過去に一度でも傷を負っていれば、その瞬間に肉片へと巻き戻ります」
会場が静まり返った。あまりにも悍ましく、圧倒的な「論理的抹殺」。
これがあれば、世界最難関の「S級ダンジョン」の単独攻略すら夢ではない。
「……20億ドル」
ぽつりと、会場の壁際に寄りかかっていた男が声を挙げた。
世界ランク3位の探索者、ジャン・ローラン。個人の武力で一国を数回救ったと言われる、孤高の超人だ。
「20億ドル。それに、俺が持っている神話級遺物の剣『レーヴァテイン』を、大田区のオヤジにくれてやる。……俺は、自分の力がハッキングされる前に、この目で『新時代のロジック』とやらを確かめたい」
S級の超人が、自らの象徴である神話の剣を差し出してまで、大田区の量産品を求めたのだ。
「……成立です。落札、ジャン・ローラン氏」
会場は、割れんばかりの拍手と、旧時代の終わりを確信した者たちの溜息で満たされた。
数日後。大田区の町工場。
「おい、悠真! ドバイからガチで『ミスリル50トン』と『特注のプレス機』が届いたぞ! 置き場所がねぇから、隣の敷地買い取るぞ!」
神崎のオヤジが、届いたばかりの超高級レアメタルをハンマーで叩きながら、満面の笑みで怒鳴っている。
「いいですよ、オークションの売上で大田区の区画ごと買い占めましたから」
桐生悠真が、ジャン・ローランから譲り受けた神話級の剣をノートPCの横に置き、白石凛に声をかける。
「白石姉さん、このS級探索者の剣のデータ、どう?」
「んー……キャラメル食べながら見てるけど、ただの『高密度の魔力回路』ね。神崎のオヤジの新しいプレス機なら、これ、3分でコピー量産できるわよ」
白石が金色に輝く瞳で退屈そうに告げる。神話の遺物すら、彼女の目にはただの「規格品」だった。
「千春さん、ポーションの原料の調達は?」
「はい! 『黒百合』の氷室さんがくれた『氷結魔獣の心臓』のおかげで、温室の温度管理が完璧になりました! 明日には新しい冷却ジェルのロットが3万本出荷できます!」
千春が嬉しそうに微笑む。その横で、水城透が世界中の大富豪から届いた数千枚の「契約書」を丁寧に整理していた。
「悠真さん、アメリカのギルドからも、次の仕様変更の要望書が来ていますよ。……さて、明日の出荷分、始めますか」
「ああ。世界中の金持ちと超人が僕たちのロジックを待ってる。……オヤジ、次のプレス、いくよ!」
「おうよ! 下請け(俺たち)の底力、世界中に骨の髄まで叩き込んでやるぜぇ!」
ガン! ガン! と再び大田区の夜空に響き渡る火花と重低音。
世界中の富、権力、そして超人たちの羨望の眼差しを集めながらも、彼らはただの「技術屋」として、今日も静かに世界の物理法則を鍛造し続けるのだった。
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