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10話 ポチ

 今日は桜と犬を見に行くと約束した日だ。イアも宣言通り同行する。桜と会う時にお姫様抱っこされているのは嫌なんだけど、イアが離してくれない。せめて桜がやって来るまでは下ろしておいてほしかった。


「あら」


 桜が門を抜けてきての一声がそれだった。もう笑ってさえくれない。


「おはようございます、サクラ」

「おはよう、勇者サマとシー。まるで王子様とお姫様に見えるけど」


 どうして動かないのかな、私の足。さすがにお姫様抱っこに慣れることはない。ないはず。


「勇者サマ、場所の検討はついているのかしら」

「えぇ。本日は北東側に出現すると思います。なので、まずは……」


 なんの前触れもなしに、重量に逆らう感覚。イアが私を抱きかかえたまま外壁の上まで飛んだのだ。


「サクラも来られますか?」


 恐る恐る下を覗くと何か言いたげな桜が見えた。


「あのね!」


 ゆっくりと高い外壁の上まで上がってきた桜は少し息を切らしていた。


「私のギフトは飛ぶより浮くなの。無茶やらせないでちょうだい」


 そして、高さのせいか桜の顔色が悪い。多分私も同じく青い顔をしているだろう。


「ひとまずはここを歩いて北東へ向かいましょう。タイミングが良ければ上からでも見えるでしょうから」


 落ちたら即死の道をイアは何事もなく歩いて行く。高さがある分、当然風も強いがイアには関係ない。桜は後ろで「もう!」と怒りながら、イアの後ろについて歩いている。


「別に近くに行くなら下を歩いた方が安全じゃない?」

「でも上の方が日差しが暖かいですよ」


 私は二人の会話に口を挟まず、なるべく遠くを見るようにしていた。近くを見ると怖い。

 こうして上から見ると王都の広さが分かる。私はほんの一部しか見れていないんだな。


「こんなところ登って……ハードゥの耳に入ったら、また怒られるわよ」

「それは面倒くさいですね。告げ口はよしてください」

「もう地上の誰かが目撃してるわ」


 地上から見ても誰なのかは分からないけど、こんなことするのはイアだけだろうな……。もしくは後ろめたい事情がある人。


「良い天気で良かったですね」


 イアが言う通り、雲のない青空が広がっている。……と言うかイアと出かける時は、出会った時を除けばずっと晴れている。もしかしてイアが何かしてる?


 イアはたまに後ろを確認しながら、どんどん歩を進めていく。私たちって今犬を探しているんだよね? こんなところを歩いてて見つけられるのかな。


「勇者サマ、後どのくらいなのかしら」

「もうすぐだと思います」


 イアの瞳がきらりと光る。なにか遠くを見通すような煌めきだ。


「シー、私から絶対に離れてはいけませんよ」

「離れないよ」


 片足不自由な状態でこんなところ立っていられない。死ぬ。


 イアが歩を止め、私を一度下ろして座らせる。そして、どこからか取り出した双眼鏡を桜に渡した。桜がそれを覗き込むと疲れの混じった声色で「いるわね」と呟いた。私も双眼鏡を貸してもらおうと思ったが、何故かイアが顔を近づけてくる。


「じっとしていてください」


 無理がある。桜も見ているところで、何をしようとしているのか。

 イアの額が私の額に触れ、至近距離で金色の目と合う。目が合って、目が離せなくて、急に眼球に違和感が走った。


「あちらを見てみてください」


 イアが顔を引き、彼方を見る。それは裸眼では絶対に見ることができない距離の様子が、私の目に映し出されていたのだ。


「柴犬?」


 丸々とした柴犬のような生き物が集合している。


「ポチって言うのよ」


 桜が双眼鏡を覗いたまま言う。


「ポチってタマとかそうゆう?」

「いいえ。この世界では犬という種族は存在しないの。代わりにいるのがあれ、ポチよ」


 何度見ても太った柴犬だ。全部茶色い。


「そろそろ彼らも食事の時間ですかね」

「見せるの? シーに」

「ちゃんと本性を見せておかないと、近づいちゃうかもしれないじゃないですか」


 何の話? 桜が同情に近い顔をしてこちらを見ているけど。


「シカが近くにきましたね」

「鹿はいるんだ……」


 猫と鹿はいるのに、犬はいないんだ。

 私は鹿の方へ視線を向ける。鹿はまだポチたちの存在に気づいてはいない様子だ。


「気づいたわね」


 桜が言った直後だった。ポチたちは牙を剥き出して一斉に鹿へと襲いかかる。あっという間に取り囲まれた鹿は無残にも生きたまま食い千切られていった。雪が赤く染まっていく……。


 気分が悪くなった。


「大丈夫?」


 桜が申し訳なさそうに私の顔を覗いてきた。


「王都の近くにも出てきて危険だから、一応知っておいてもらった方がいいと思って……」

「大丈夫だよ」


 あまりの生々しさに吐き気まで覚えているけれど、大丈夫だ。


「彼らは人間であっても見境なく襲ってきますので、近づいてはダメですよ」


 あんな可愛い見た目をして恐ろしい。


「さて目的を果たしたことですし、お昼にでもしましょうか」

「どこで食べる気なのよ、勇者サマ」

「ここなら見晴らしが良いですよ?」

「シーと私は人間なのよ。こんな危なっかしいところで食べられるわけないじゃない」


 その前に、今食欲ないんですけど。


「文句の多い子ですね」


 わざとらしくイアは溜息をつくと、辺りを見渡した。


「あそこの丘で食べましょうか」


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