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第7話 秘密同盟

 『ダブル刺殺未遂事件』と『アレクシス夫妻による本気追いかけっこ』の翌日。


 私はいつも通り王宮に出勤して自分の席に着いた。

 今日も元気に仕事しようって思ったけど、なんか違和感――。


 いつもと雰囲気が違う気がするんだけど。なんだろう?

 うん、やっぱり職場の空気がおかしい。

 

 っていうか、みんな私の方を見てるんですけどぉおお!!

 チラチラと見て、ひそひそと何かを囁き合ってますよ。ど、ど、どうしたの??


 あれ、もしかして……?

 私の顔に何かついてる?



 いやん、口元にご飯粒がついてたのね♡


 そう思い慌ててハンカチで顔を拭ってみた。いや、何もついてないじゃん!


 思わずハンカチを叩きつけそうになったけど、大人な私はグッとこらえた。

 やるじゃん、私。



 だけど、なんで?

 うーん……全くわからない。

 

 首を傾げる私に、隣の席の先輩であるアンナが、そっと声をかけてきた。


「ミリア……昨日、西棟の廊下で、アレクシス子爵夫妻と何かあったって本当?」

「えっ!?」

「なんだか揉めてるみたいだったって、噂になってるわよ」

「揉めてるって?」

「子爵が奥様にものすごい剣幕で追いかけられてたって、大騒ぎなのよ」


 うそッ、昨日の帰り際の話だよ?


 噂の広がるスピードは、なんでこんなに速いのだろう。私は慌てて首を横に振った。



「いえいえ! 何もありませんでしたよ! ちょっとした、その……夫婦喧嘩の現場に、偶然居合わせてしまっただけです」

「そ、そうなんだ。なら、いいんだけど……」



 アンナ先輩は歯切れ悪くそう言うと、自分の仕事に戻る。


 それを見た私は、ほっと胸を撫で下ろした。


 よかった~。私が刺されそうになったところは、誰にも見られてないみたい。


 よっしゃ、完全にセーフ!!


 そう、あれはただの夫婦喧嘩。

 そこにたまたま、ジュリアンさんと私が居合わせただけ。


 どうして私が刺されそうになったのか、未だに全くわからないけど。誰も見ていないなら問題なし。

 

 これなら、あの2人が罪に問われることはないよね!


 これにて一件落着!

 めでたし、めでたし。


 ◆



 その日の昼休み。

 王宮の中庭にある噴水近くのガゼボで、2つの影が密談を交わしていた。


 

「あら、ごきげんよう。確か……夫を惑わす女狐に加担していた、変なお方ですわよね?」

「そちらこそ、ごきげんよう。愛しのルカ様にまとわりつく害虫を駆除しようとしたら、横からしゃしゃり出てきた奥様ではなくって?」



 にこやかに毒を吐き合うのは、ティーカップを優雅に持つエレオノーラ・フォン・ベルンハルト子爵夫人と、タキシード姿の美青年ジュリアン。偶然の再会を果たした二人は、探り合うような視線を交わしていた。



「あなたが余計な邪魔をしなければ、あの女をきっちり成敗できていましたのに」

「それはこっちのセリフよ。わたくしの聖なる制裁を、夫婦喧嘩で台無しにしてくれたのはどなたかしら?」


 お互いに前回の騒動の責任をなすりつけ合い、一触即発の空気が流れる。


 だが、その時だった。

 

 2人の脳裏に、同時に同じ光景がフラッシュバックしたのだ。


 ――『もしよろしければ、お2人とも、どうぞどうぞ!』


 自分たちに向けられた刃を前に、嬉しそうに順番を譲ろうとした、あの狂った女の顔が。


「ちょっと……待ってちょうだい」

「あら、奥様……奇遇ですわね」



 ピタリ、と2人の動きが止まる。


 目の前の相手よりも対処すべきなのは、もっと得体のしれない存在だ。


「あの女……どう考えても普通じゃありませんわ」

「ええ、わかるわ。わたくしの『泥棒猫』という最大級の罵倒を、満面の笑みで受け止めるような女だもの。正気の沙汰じゃないわ」

「こちらの純粋な殺意を、まるで親切心か何かと勘違いして受け止めようとするなんて……あれはいったいなんですの?」

「……天然にしては少し――いや、あれが計算だとしたら? もしそうなら、とんでもない魔性よ!」

「そうですわ。わたくしたちが今、ここで争っている場合ではないわ」


 1人で相手にするには、ミリアはあまりにも手強い。

 そう考えた2人の間に、奇妙な連帯感が芽生え始めていた。



「奥様……こうなったら、わたくしたち。手を組みませんこと?」


 ジュリアンが、芝居がかった仕草でスッと手を差し出した。



「目的はただ一つ。わたくしたちの『真実の愛』を、あの泥棒猫から守り抜くこと!」

「真実の愛……」



 エレオノーラは、アレクシスが自分だけを見てくれていた頃を思い出して、キュッと唇を結ぶ。


「……よろしいでしょう。あなたの提案を受け入れます」


 エレオノーラは、その手を固く握り返した。


 ジュリアンは、ルカとの輝かしい未来を夢想し、瞳に炎を宿らせる。

 

「ここに、わたくしたちの秘密同盟の結成を宣言するわ! その名も……『真実の愛を守り隊』よ!」

「少し……いえ、かなりダサい名前の同盟ですけど。目的は合致していますものね。ええ、異議ありませんわ」


 昨日は刃物を手にいがみ合っていた2人だったが、今日、ここに歴史的な和解を果たした。


 そして、打倒ミリアを掲げる秘密同盟『真実の愛を守り隊』がここに爆誕したのである。

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