第5話 運命の出会い
王宮の事務官という仕事に就いたのは、国の未来と人のために働けると思ったからだ。
……それに何よりも。
今度こそ、普通に恋をして、普通に幸せになりたかった。
そして私は、運命の出会いを果たした。
彼こそ、私の恋人。
ルカ・ハインツ!
働き始めて半年ほど経った頃、ルカは同じ部署に配属されてきた。
最初は「あ、この人かっこいいな」と思った程度。会話もほとんど交わさず、特に接点もなかった。
けれど、ある日——。
「あ、あのっ、これ……落としましたよ」
そう言って、私の落とした資料を拾ってくれたのが彼だった。
……テンプレ展開、キターーーーーー!
でも、その一言から少しずつ会話するようになって、距離が縮まっていったのだ。
ルカは、他の男性職員みたいにジロジロ見てくることもなかった。
あれ結構、地味にストレスだったんだよね〜。
寝癖が酷いのかなとか。口元にご飯粒でもついてるのかなって、不安になるわけですよ。
前世の私は、空気みたいな扱いを受けていたから、そんなにジロジロ見られると……正直怖い。
そんな中、ルカは真っ直ぐに私の努力を見てくれて、認めてくれた。
「ミリアさんは、いつも一生懸命だね。君が整理した資料は、すごく分かりやすいよ」
その一言が、もう……胸にズッキューンだった。
ええ、胸がキュンキュンしちゃいましたよ。
誰かに『がんばってる』って言われたの、いつぶりだっただろう。
こっちの世界に来てから自分を変えようとずっとがんばってた。それを分かって貰えた気がして嬉しかった。
ルカは誠実で、やさしくて、笑顔も素敵で。
テンプレみたいな出会いだからって関係ないよ!
もう、そんな彼に惹かれるのは自然な流れじゃない?
そして、まさかの告白までされたときには……あまりの嬉しさに、夢かと思ってしばらく腕をつねってた。
うん、あれは痛かった……。
つまり現実だったんだよ!!
おぉ、ついに……私にも幸せが……!?
苦節40余年、長かった……。
ロングなシングルアローンライフともこれでおさらば……イェイ!!
この穏やかで誠実な恋が、私の再スタートだって信じてた。
そんなある日。
私は、仕事ぶりを評価されてアレクシス・フォン・ベルンハルト子爵の部署に異動することになった。
アレクシス子爵は、いわゆる『理想の上』だった。
貴族なのに偉そうにすることもないし、平民の私にも分け隔てなく接してくれて、褒めるときはちゃんと褒めてくれる。
「ミリア君、君がまとめてくれた報告書、素晴らしかったよ! おかげで会議がスムーズに進んだ」
……お上手すぎでは!? と思いつつ、嬉しくてテンションが上がった私は思わず。
「お、お役に立てて光栄ですっ!」
と、大声で返事してしまい——その瞬間、空気が凍った。
しーん……。
フォウッ! やってしまったぁぁああ!!
職場の空気がガラスのようにパキッと割れた気がして、私は思わず凍りついた。
でも——アレクシス子爵は、優しく笑ってくれた。
その笑顔に救われて、私はさらに仕事に前向きになった。上司に認められてるって思えると、こんなにもやる気が出るんだって、自分でもびっくりした。前世の会社もこうだったら良かったのにな〜。
そんなある日、彼女はやってきた。
「こんにちは。アレクシスの妻ですわ」
子爵の奥様、エレオノーラ様だった。
第一印象は……なんか、すごいって感じだった。さすが貴族の奥様って感じで、もう圧がすごいの。めちゃくちゃ緊張しちゃったよ。
けれど、笑顔で挨拶してくれた。私は一気に好感度が上がった。
やっぱ貴族の奥様ってすごい。美しいし、オーラが違う!
問題はその後だった。
仕事の話で子爵と盛り上がっていた私がふと視線を感じて振り返ると、エレオノーラ様の笑顔が、ない……ですとぉ!?
……あれ? あれれ? さっきのにこやかスマイルはどこ行ったの?
お出かけですかぁ??
代わりに現れたのは、キリッと鋭い目つきにピシッとした姿勢。背中に棒でも入れてるんですか、っていうくらい真っ直ぐです。
あれ?
これ、見られてる?
私、観察されてるんじゃ?
そっか、きっと私は『旦那の部下』として、仕事ぶりをチェックされてるんだ!
そりゃそうよね、使えない部下が旦那の部署にいたら困るもの!
すごいなぁ……エレオノーラ様、敏腕秘書みたい!
眼鏡とポニーテールがあったらもっと完璧だったのに……惜しいッ!
それ以来、彼女の私を見る目はずっと厳しい。
でも、私は決めた。
彼女の期待に応えるくらい、完璧に、全力で、子爵の仕事をサポートしよう!
そうすれば……いつか、きっと。
私、エレオノーラ様に認めてもらえるはずだから!