第10話 最高の青空
「う~ん。すごくいいお天気だねっ!」
雲ひとつない青空、最高だよ。これぞピクニック日和!
私は両手を空に向かってぐぃ~っと伸ばして、太陽を浴びた。
私の隣には愛しのラヴァーである、愛するルカ。でも今日はプライベートじゃなくて、王宮職員たちの親睦を深めるピクニック。
広々とした緑の丘には、色とりどりのシートが広げられていて、あちこちで楽しそうな笑い声が響いている。
うんうん、いいね!
この雰囲気だけでテンションが爆上がりしちゃいますな!
「ひゃっほーい!!」
ウキウキして走り出しちゃったりして。
「ミリア、はしゃぎすぎると転ぶぞ」
「大丈夫大丈夫! こんなに気持ちがいいんだもの! 転んでもノーダメージだよ!」
「ったく、ミリアは元気だな……」
呆れたように笑うルカに、私は満面の笑みを返した。
あぁ、素晴らしい。今日も平和です。
職場のみんなは、私のハーブティーで元気を取り戻しつつあるけどまだ本調子じゃない。でもこんな素敵なイベントがあれば、きっと心も体も癒されるよね。そうだと嬉しいな。
犬のように走り回って、草の上で受け身を取って、ヘッドスプリングで起き上がろうとして見事に失敗して。草まみれのまま立ち上がったとき、後ろから声をかけられた。
「あら、ミリアさんじゃない。奇遇ですわね」
「本当に。こんな場所で会うなんて、運命を感じるわぁ~」
聞こえてたのは、妙にねっとりとしたハチミツみたいな2つの声。振り返ると、そこにはピクニックにまるでそぐわない豪華すぎるドレスと、パリッとしたタキシード姿の人物が。
一瞬、変態か!? と思ったけど、エレオノーラ様とジュリアンさんだった。
ていうか、この2人って仲良くなったてたんだ。
あ、もしかして……。
「そのナイフ、どこでお買いになりましたの?」
「もちろん〇〇武具店よ」
「あら、私も! あの店、品揃えいいですものね~」
「まあ、奥様。奇遇ですわね♡オホホ」
――みたいな会話で盛り上がった感じかな?
お揃いのナイフで意気投合みたいな。
でもな~んか変だな……こんなに楽しい雰囲気のピクニックなのに、2人の目は全く笑っていない。
なんだろう。もしかして具合悪いのかな?
「こ、こんにちは、お2人とも……」
「ええ、こんにちは。さあ、存分に楽しむといいわ。わたくしたち、あなたのこと、ずーっと見ててあげるから♡」
「本当!? ありがとう、ジュリアンさん!」
「…………くッ……!」
あれジュリアンさん?
なんか苦しそうだよ。やっぱり具合悪いんだって……。エレオノーラ様も心配そうにしてるよ……?
私の心配をよそに、2人は少し離れた木陰の下にシートを広げて座りCCTV(監視カメラ)みたいにジィィィっと、こっちを見ていた。
うわあ、本当に見守ってくれてる!
刺されそうになった時は驚いたけど、本当は優しい人たちなんだ。
これなら、なにがあっても安心だね!
と思ってルカに振り向くと――。
「……ミリア。今日は、なるべく俺から離れるなよ」
めちゃめちゃ真剣モードじゃないですか、彼。
なにがあったんですの?
「え、なんで? あの2人が見ててくれるから大丈夫だよ」
「それ、本気で言っているのか?」
「そうだよ。どうかしたの?」
「いや、大丈夫だ……俺がなんとかする」
え、なんとかって何かな?
でも、嬉しいこといってくれるねぇ~。照れちゃうじゃんよ!
「ありがとう……ルカ」
ルカって、最高の彼氏って言葉がピッタリだよね。
今日のピクニック、絶対に楽しくなる予感しかないッ!!
私はワクワクと希望に満ちた気持ちで青空を見上げた。
◆
「奥様……やっぱりあの女、だた者じゃないわ!」
「ええ、一体どんな精神構造をしていればあの状況で『ありがとう』なんて感謝の言葉が出てくるのかしら……本当にゾッとしますわね!!」
木陰に広げたシートの上。
エレオノーラとジュリアンは、笑顔の仮面を脱ぎ捨てて冷たい眼差しでミリアを見つめていた。
「たぶん純真さを装った高等戦術ですわ。あの泥棒猫、わたくしたちの作戦を逆手に取って、心を揺さぶりに来ているのよ」
「まさに精神攻撃ですわね……ああ許せませんことよ! なによあの笑顔!! まったくもって屈辱的ですわ!」
ジュリアンとエレオノーラは、敵の余裕の反応にイライラを募らせていた。
だが、2人とて無策でここに来たわけではない。
「ふふ、でもご安心を奥様。第1の作戦……そろそろ決行しますわよ」
「そうだったわね、ジュリアンさん。あの女狐に目にもの見せてやりましょう!」
「ええ、わたくしたち『真実の愛を守り隊』の力を振るうときが来ましたわ」
そう、彼らにはミリアを陥れるための作戦があるのだ。
「ねぇ? 前から思っていたけれどその名前、とぉ~ってもダサくないかしら?」
「え、そう? 『ミリアを絶対ぶっ潰し隊』のほうが良いかしら?」
「ちょっと勢いが強すぎますわね。物騒だけど……嫌いじゃなくってよ」
同盟の名前はともかく、作戦が水面下で動き始めていた。
ピクニックの平和な空気の中に、静かに忍び寄る2人の思惑。
それはまだ誰にも気づかれていない。