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谷澤景六の悩み

〈春の朝髙き梢の鳥はなに 涙次〉



【ⅰ】


 テオ=谷澤景六の、『アモルファスな男』、テオの意氣込みに叛して、なかなか筆が進まない。

 まづ、構想にあつた「猫である自分」と云ふのが、書き難かつた。

 猫の世界は、基本的に「無言語」の世界なのである。私(永田)が、テオとでゞことの會話として、人間の言葉に翻譯したものは、身振りも含めての「意譯」なのであつて、それは逐語譯にしてしまふと、意味を成さない。テオは、無言語の世界と、人間たちとの言語の遣り取りが、だうしても混乱して書かれてしまふ事に、難澁してゐた。彼ら・猫たちが「にやあ」と啼くのは、「にやあ」と云ふ以上の意味を持たない。


 然し、坐礁は許されぬ。木嶋さんの期待に脊く事が、彼女の精勤ぶりを裏切ることゝなるからだ。また、この峠を越える事は、作家としてのテオには、だうしても必要な事だと、彼自身には思はれた。


「傍観者null」は、そのテオの作家としての悩みを利用すべく、次なる手、血戦の火蓋を考へてゐたのだつた。



【ⅱ】


 思ひ余つたテオは、安保さんに縋つた。「猫語翻譯機」の製作を、安保さんに依頼、だう云ふシーンでは、だう云ふ身振りで猫が「話す」のかを詰め込んだ、謂はゞ、猫語:人間語の電子辞書である。


 安保さんは、相も變はらず「下町精密機器部品工場」での役員業が忙しく、納品にはロボテオ(1號)を使ふ、と云ふ。そこにnullは目をつけた。


 ロボットだつて夢を見るのである。それは、夜間、ボディの休んでゐる間の、頭脳=スーパーコンピュータの機能チェックとして、必要な事であつた。その夢枕に、nullは立つたのだ。



【ⅲ】


 大變だ。ロボテオ1號が誘惑されてゐる! その作者の聲は、テオの耳には届かない。ロボテオ1號は、まんまとnullに頭脳を侵され、折角の安保さんとテオの勞作・「猫語翻譯機」にバグを埋め込んでしまつた。


「翻譯機」は、その結果、全く使へないものとなつてゐた。「安保さん、いゝ加減な仕事をする人ではないのだけれど-」テオは悩んだ。まさか1號の仕業だとは、氣付かない。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈ロボットは電氣羊の夢見るか猫型をした時限爆彈 平手みき〉



【ⅳ】


 すつかり疑心暗鬼に陥つたテオ。テオの優秀な脳まで、nullの画策に侵されかゝつてゐた。「くひゝ、猫には散々苦い思ひをさせられたからな」


 カンテラは、テオの頭脳が明らかに變調を來たしてゐる事、に氣が付いた。(これは『傍観者null』の次なる手に違いない)とは思つたものゝ、今度ばかりはさうイージーには、對抗出來ない。


 カンテラは、取り敢へず、テオの夢の中に潜入して、事を待つた。



【ⅴ】


 すると... やはりと云ふかなんと云ふか、nullがそこ(テオの夢)に、現れた。然し、斬る迄には至らぬ。テオの脳は、眠つてゐる間も、髙度の計算に埋め盡くされてゐて、それが障害となつて、容易には「荒事」を働くスペースが見付からない。


 これにはさしものカンテラもお手上げだつた。人(?)の精神の専門家ではないのだ、彼は。彼は斬魔屋である。然し、カンテラが仕事をしたが為に、テオの頭脳が破壊されたのでは、元も子もない。


 流石に最終決戦ともなれば、敵さんもなかなかやるわい。さうカンテラは思ひ、一旦は退却する事にした。さて、だうするか。nullをちと、舐めてゐたやうだ。カンテラ、作戦の變更を余儀なくされた。



【ⅵ】


 と、云ふ事で、カンテラ現在、外殻(=カンテラ)に籠もつてゐる。テオはその間も、見る見る調子を崩してゐた。だう出る、我らがヒーローよ!?



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈曇りのち晴れとは云ひたけれど春 涙次〉



【ⅶ】


 だがカンテラ起死回生の道は、容易く開けた。さうだ、脇差しだ! カンテラは事が簡単だと、氣付かなかつた自分を嗤つた。狹い室内での仕事に役立ちさうだ、と、云つたのは自分ではなかつたか。


 傳・鉄燦の脇差し。死せる霧子から奪ひ取つた逸品。これを使へば、テオの脳内での仕事が出來る! カンテラは、再びテオの夢に潜り込み、nullを待つた。


 さうとは知らず、null登場。「ふはゝ、カンテラよ、何度現れても同じだ。猫の脳は俺が牛耳つた」カ「さて、それはだうかな」カンテラはテオの脳の成分を荒さぬやう、慎重にnullに近付いた。


「しええええええいつ!!」の氣合ひは、脇差しには似合はぬ。カンテラは無言で、nullの腹を突き刺した。「ぐ、な、何~」深手を負つたnull。彼は二度と玉坐に坐る事はなかつた、と云ふ。自らの出馬で、ヘマをしたのでは、元々人望のない彼に、「はぐれ【魔】」たちは見向きもしなくなつたからだ。



【ⅷ】


 テオは見る間に復調。「猫語翻譯機」も直り、筆も捗るやうだ。ロボテオ1號も、元のロボテオに戻つた。仕事料は木嶋さんの所属する「ミッドナイト・サン」が、二百萬(圓)程だが支払つた(テオ=谷澤景六の窮地を救つた譯だから)。かうして、平和は訪れた。かに見えたが...


 と、今後に含みを持たせるのは物語作者の(つね)。カンテラ・シリーズは私(永田)のライフワークだから、さう簡單には終はらせられない。さて、次回はどんな一件(ヤマ)がカンテラ一味を待ち受けるのか? 乞ふご期待!


 さう云へば、君繪の成長を追ふ件は、だうなつたのか... とか、色々膨らませる要素はあるのだ。頑張れカンテラ、頑張れ作者・笑。


 ぢや今回はこれで。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈見る内に奪はれし目よ作家蘇生頑張れ作者こゝにありけむ 平手みき〉


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