担任の橋ノ本芽衣古という人物
教室には僕を含めて四人しかいなかった。教室の広さは前の学校のときと同じくらい広かった。しかし児童数はたったの四人。これはマンツーマンで授業ができる体制なのだろうか。何人も児童を受け持つ先生じゃないなら、僕たちのことも監督不行届きにならない。果たしてこれは喜んでいいものか。
僕は喧嘩する彼らの間に入れられるように、静かに座った。
早速嫌な予感しかしない……既にみんな仲良くなっているし、僕の第一印象も最悪だ。これから巻き返すのは至難の業だ。一人ぼっちは寂しい。仲間外れにされるトラウマが蘇る。
暫くして先生が引き戸を開けて入ってきた。笑顔も忘れずに。
「おはよんさんにーいちぜろ! よーし。これから授業を始めまーす! 席に着いてるねー? よくできました! みんな一〇点ゲット! ウホッ! やったねん!」
「……誰だ貴様? 中々変な挨拶だな。まるで舞い降りてきたゴリラのようだが」
先生の個性的な挨拶も虚しく、こさまちゃんに最大の疑問をぶつけられた。
僕も先生の名前を知らなかった。何て言うのだろう。魔女と呼ばれていたから、間女々(はざまめめ)なんかだったりして。女々か、中々可愛い名前だな。……こさまちゃんの口調うつったかな?
「私は橋ノ本芽衣古。漢字はこう書く!」
そう言って先生は板書をした。大きく書いてくれた上、達筆で読みやすかった。
はしのもと……めいこか。変わった名前だ。僕が考えた名前よりはましだけど。
「今日からこのクラスの担任になりました。美人じゃないけど、よろしく」
「なまらブスじゃな」
「どうせなら乳でかい方がいいぜ。アンタ、絶壁だなァ。ぺちゃぱい」
「フム。名探偵碧子様の見立てによると……中の下ってところだ」
みんな厳しかった。僕は美人だと思ったけど、僕とは感性が違うのか。
先生も自分で言っていたのに、総攻撃に堪えている様子。子供のこういうところがいいことだと言っていたけど、これはよくないと思う。いじめだよ。
「僕は美人だと思う」
「まーちゃん、お世辞はいいから」
先生はニッコリ笑顔でいるものの、青筋が走っていて怖かった。
僕が怒られるのはどうして?
「こういう奴んは、はっきり言った方が身のためってことなんよ」
「こいきちゃんはどうして方言がコロコロ変わるの?」
「クックッ。いきなりテメェの隙突かれてやがるぜェ」
「黙らっしゃい、千歳飴! 一般モンキーが女帝に口出ししてんじゃねェ」
「んだとォ? 今は飴関係ねェだろが! クソアマァ!」
オールバック君が突っかかるからいつも喧嘩になってしまう。けど、今回ばかりは先生が止めに入ってくれた。僕はほっと胸を撫で下ろす。