歪(いびつ)な家族
僕は半ば達観視してしまう、可愛げのない子供だった。
僕たちは両親に挨拶をして、朝食を食べた。
両親はいつも朝忙しくてご飯を作って出ていってしまう。それを弟も見ているので、いつかは僕たちの家族がおかしいことに気づくだろう。もう少し弟にも構ってくれれば、将来も不安に思わないのに。
「……でも、それは僕たちのためだから……仕方ないのか」
「にーちゃん?」
「にーに、どうしたです?」
「……あ、いや。何でもないよ。ごめんね、心配させて」
今は食事を作ってくれるだけでもありがたい。僕の負担も軽くなる。
でも僕ももうすぐ受験生だ。あと二年もあるけど、勉強はしておかなくちゃいけない。
僕も忙しくなって弟に構ってあげられなくなったら、弟はひねくれてしまうかもしれない。愛情を受けずに育った子供が悪さをして、人の目を引こうとするのをテレビで観たから。
リモコンを取ってテレビをつけた。テレビ画面に向こう側の人が映る。
チャンネルを回してニュースと天気予報をチェックする。
「にーちゃん、あにめみたいー」
「ごめん、すぐ変えるから、ちょっと待って」
「ぼく、かいめんぱんさーみたいです」
二人にせがまれてもテレビは一台しかない。そして僕も一人しかいない。
できればもう一人兄弟がいればよかったなあと常々思っている。
そんなこんなで始まった新しい学校生活。
学校は家からかなり遠いところにあり、片道一時間半もかかった。自転車だ。
僕が自由に使えるお金はほぼない。だから友達と遊びにも行けなかった。
今度の学校では、僕のように前の学校にあまり馴染めなかった子供が通うことになっている。ということは、僕と話が合う子もいるのではないだろうか。
乗ってきた自転車を駐輪場に停めて、逸る気持ちを抑えた。
「あら、おはよう」
誰かに声をかけられた。夢で見た女性の声に似ている。
生で初めて聞けた。凛としていて透き通るような美しい声だった。
どこから声をかけられたのかわからなかった僕は、周りを見回した。けれど見つからなくて、女性の方から回り込んでくれた。突然現れた女性の顔に、僕はドギマギする。
「お、おはようございます」