生まれ変わったら何になりたい?
――生まれ変わったら何になりたい?
「前に先生聞きましたよね? 先生は何になりたかったんですか?」
夕日が差し掛かる頃、二人きりの教室で私は先生に聞いた。先生は気難しそうに考え込んだ後、苦笑いで返事をしてくれた。
「んー、そうねぇ。私はやっぱり人間かな。南さんは何になりたい?」
「私はやっぱり魔法使いとかですかね! 人間にはできないことを簡単にやってのけるとか……楽で良いじゃないですか!」
興奮気味に言った私を先生は窘めるように、あるいは諭すように溜息を含んだ声で呟いた。
「夢があっていいね。でもね……やっぱり簡単にできないことに意味があると思うの。研鑽を重ねて今の時代があるわけだし。そんなすぐにできてしまったら誰も何も頑張らないんじゃないかな」
先生は少し寂しげに夕日の差した顔を私へと向けた。私は先生の言葉を脳内で反芻し、深く心に焼き付けた。
楽をする方へと進もうとする自分が情けない。
努力することを教えてくれたのは、他の誰でもない、先生だった。夢を持つことの素晴らしさを教えてくれたのも、愛情を持って他人に接することを教えてくれたのも先生だった。そんな先生に幻滅されるところだった。いや、もう幻滅されているのかもしれない。だが、そんな私を救ってくれた。先生はこの先何年経ってもずっと私の先生だ。先生は私の人生の先輩。
その気持ちを打ち砕いたのも、また先生だった。
中学の卒業式の日、先生は唐突に自分の正体を告げた。もう会わないつもりのよう。
「先生、何でなんですか! 何で今まで……教えてくれなかったんですか!」
「ごめんね……でも、もう行かなくちゃ。ばいばい」
「嫌だ! 嫌です! 先生と過ごした日々は嘘だったんですか! 魔女だなんて……そんなの信じません! ここは日本ですよ?」
先生は私に背を向けたまま、歩き出す。
「先生! じゃあ何で私に自分の正体教えてくれたんですか!」
私は涙を堪え切れず、泣き叫んだ。
「本当は……私と一緒にいたこと……楽しかったんじゃないんですか!?」
泣き喚く私の言葉に思うところがあったのか、先生は歩くのをやめて立ち止まった。
「そうだね……楽しかったよ。子どもができたみたいで。魔女には……できないからね」
私は指で涙を拭い、先生の背中を見つめた。どこか淋しそうな背中だった。
「でも……掟、だからね」
長い茶髪をなびかせ、先生が私の方へと歩み寄ってくる。そして私の頭に手を置いた。
先生の優しい手が私の頭を撫でてくれるわけではないことは、わかっていた。半信半疑とはいえども、先生は魔女なのだろう。でなければ、先生がこんなに悲しい顔をするはずがない。