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7代目勇者ー勇者をクビになった俺が相棒となら、この世界を救えるのだろうか?  作者: 酒月 河須(さかづき かわす)
第1章 勇者としての始まり
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第6話 ガシスは思う

本日も投稿させていただきました。よろしくお願いいたします。

「ここは……」

リッツが再び意識を取り戻したのは夕暮れ時のことだった。襲撃から4時間経過してのことである。頭に靄がかかった状態のリツは、自分のいる場所を即座に把握できずにいた。


「リッツ!」

ガシスに呼びかけられて、リッツは冷や水を浴びたように、急激に起き上がった。

リッツは反射的に周囲を見る。すると、無傷のガシスとアインが視界に映って安堵する。


「リッツ君が無事そうで何よりだよ」

胸をなでおろすアインに、リツもまた静かに息を吐き出す。


「それはお互いさまです…… 本当に良かった」

そう言って、リッツは微笑むが、周囲を見渡した途端にその笑みは煙にように立ち消えた。なぜなら、荷馬車に積んであった、持ち運び可能な荷物がすべて消失していたからだ。


「倒れている間に金も奪われてね。しばらくは大赤字かな」

大きなため息をつくアインに、リッツは茶色のモッズコートの胸部分をクシャリと手で握りしめた。


「……すみません。お二人の護衛でもあったのに」

リッツが謝ると、アインは首を振った。


「いやいや、リッツ君が謝ることなんてないでしょ。ねえ、ガシスさん?」

アインに話を振られたガシスは、リッツの肩に静かに手を置いた。


「ただの不慮の事故だ。商売なんて、命があれば、またやりなおせる。だから、気にするな」

ガシスはポンポンとリッツの肩を叩く。一方のリッツは視線を落とし、自分の影をじっと見ていた。


その様子を見たガシスとアインは互いに顔を見合わせるのだが、急にリッツはぱっと目を見開き、顔を上げて、連峰をじっと見る。その変わりように、アインは驚く。


「リッツ君、どうしたの?」

尋ねるアインを無視して、リッツは目を見開いたまま、銅像のように動かない。


不自然なリッツの様子にガシスも見かねて、リッツに呼びかける。


「おい、どうした、リッツ!」


「……見つけました」

ガシスが呼びかけてから2秒後に、リッツは呟いた。


「何を見つけたの?」


「あいつの居場所が分かりました」


「あいつって盗賊? いや、でも複数人だからあいつら……だよな? ちょっとどうしたの?!」

リッツはアインの呼びかけを意にも介さず、荷馬車の中からわずかばかりの食料とリュックを取り出した。アインとリッツの会話を聞いていたガシスはとある結論に至り、それを口にする。


「……奪われた武器を見つけたのか?」

 

ガシスの一言を聞いたアインはすぐにリツの方に顔を向けた。


「はい。あいつが目を覚まして、俺に呼びかけまして……方角とおよその距離は」

リッツは淡々と答えつつ、わずかばかりの荷物をリュックに詰めている。


「ちょっと待って! リッツ君、どういうこと? あいつって何? そもそも武器の居場所が分かるって……いや、そうじゃない。盗賊連中のところに行く気かい?」


「そのつもりですけど……」


「私とガシスさんは意識を取り戻してから、私が雇った護衛2人を探しに行ったんだ。君らと合流した時に話していたことだけれど、私が雇った護衛2人を私達から少し離れたところで様子を見てくれていたんだ。彼らなら何とかしてくれると思っていたんだけれど、やられていた。盗賊の奴らはおそらく、手練れだと思う。君が護衛ではなく、行商人と思われていたから、やられずに済んだ気がする。もし、君が反撃しにいったら、間違いなく彼らは君を殺しにかかるよ! ここは商会に相談して複数の傭兵を雇って、居場所を教えれば……」

アインが戸惑う中、リッツは奪われずに済んだ、唯一の馬にまたがった。


「さっき一文無しと言ったばかりじゃないですか。雇うにしてもお金が要りますし」


「それはそうだけれど。前借りするなりすれば……」


「手続きに時間がかかりますし、その間に転売されるのが明白です。今なら追跡できる距離にいますし。まだ取り返せます」


「でも……ガシスさんも何か言ってください!」


アインとリッツのやり取りを黙って聞いていたガシスが口を開く。


「……大丈夫なのか?」


ガシスはリッツをまっすぐに見つめて、尋ねた。


「多分……」

その視線に、リッツは正直な気持ちを吐露する。


「命ありきの人生なんだ。無茶はするなよ」


「とは言っても、俺は護衛ですし」


「お前さんはこれまでも、道中で出くわした魔物討伐で貢献している。商売品が奪われたって、何度でもやり直せる。だから、無理はしなくて良い」


「そうですね。でも……」

そう言って、リッツは瞳を閉じる。すると、リッツの周囲に小さな緑色の灯火がポツポツと現れる。


「我が身体の一部となれ! フーガ・ビークル(風魔法の鎧)!」

リッツが唱えると、馬が雄叫びをあげた。それと同時に風圧が発生し、馬のたてがみと尻尾がなびいた。


「あなたには返し切れない恩があります。だから、恩を返せるなら、この命を賭けることに後悔は無いですよ。ただ、失敗したら、ごめんなさい。でも、きっと帰ってきますので……」


リッツが早口で答えると、手綱を握り、馬は勢いよく走り出した。方向は白い街並みが広がっている『ホワイトセブルス』とは逆方向の山間部へと続く街道。


「ちょっと、リッツ君!」

アインは呼びかけるが、馬が止まることは無い。


一方のガシスは人差し指と親指で目頭を強く抑えて、天を仰いだ。そして、アインには聞こえない程度の声量で呟いた。


「神様……もし、あんたがこの世にいるんであれば、どうかあいつを、リツを……見捨てないでいてくれ……」


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。引きつづきよろしくお願いいたします。

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