第40話 思わぬ再開と今後のこと
本日も投稿しました。よろしくお願いいたします。
「アマネちゃん。こちらよ」
長髪の茶髪の女性であるカナエは勇者の館内のとある一角の扉の前に黒髪の女性を案内した。
「ありがとうございます。この先に彼らがいるのですね」
黒髪の女性はカナエに、優しく問いかける。おしとやかな雰囲気は大和撫子を彷彿とし、その清楚さにはカナエも見とれる瞬間がある。彼女の名はアマネ。リツとブライが探していた人物である。
アマネは医務室と記載されたドアプレートを指さしながら、カナエに尋ねた。
「そうよ。忙しいのにごめんね。それに、私もいろいろと引っ掻き回すような形になって……」
「いいえ。私のことを慮ってのことだと理解していますし。大丈夫ですよ。では、彼らと話して来ますね」
アマネはそっと扉を開いた。
部屋の中では、全身を包帯で巻かれている青年のリツが、食事を摂っているところであった。
彼は勇者カナエとの決闘を行い、一騎打ちの大技を放った後に倒れてしまった。カナエは大技を放った後でも体力が残っていたため、リツをその場で拘束し、勇者の館の最寄りにある治療棟まで運搬し、今に至る。
「なっ……」
リツは食事の手を止めて、部屋に入ってくる二人の女性をまじまじと見る。
「お久しぶりです。リツさん。お怪我の方はどうですか?」
「ええ……なんとか」
リツはチラリとカナエの方を見てから、しどろもどろに答える。
一方のカナエはそっぽを向きながら、髪先をクルクル触っている。
「特に身構える必要はありませんよ。今日はあなたとお話がしたくて、ここに来ましたので」
『リツ。凶暴なネーチャンに挙動不審になるのは分かるが、この綺麗なネーチャンは……ダレ?』
(この人がアマネさんだよ)
『何!? あの凶暴なネーチャンは俺らにアマネって人を会わさないつもりでいたのに……どういう風の吹き回しだ?』
ブライの口調は急に早口にもなっていた。待ちわびていた人物であるが故にその胸の高鳴りはリツでも感じ取れた。
「私からお願いしたのですよ。お二方とお話がしたいと……」
「!?」
ブライとリツは目を見張った。自分達のやり取りが聞こえているかのようなアマネの回答に、驚きを隠せずにいた。
「ネーチャン、オレらのことが分かるのか?」
ブライは思わず、リツと入れ替わって、アマネに確認を迫ってしまった。それほどまでに衝撃の大きいことであった。
『おい、ブライ……また勝手に』
リツは何度目かのため息を吐く。
一方のアマネは突如として口調が変わったリツの様子にほんの一瞬だけ目を大きく見開いた。しかし、それもすぐに目を細めて、優しくブライに問いかける。
「あなたが剣の方ですかね? 初めまして。勇者の皆さまの支援を担当している神官のアマネと申します」
アマネは深々と頭を下げた。
「このたびの怪我は私にも原因の一端があること、申し訳なく思っています。カナエさんも反省しております。ただ、カナエさんは私の安全と負担を慮ってのことですので、どうか穏便にして頂けると……」
頭を下げながら、謝罪の言葉を述べるアマネにブライは首をフルフルと振った。
「イヤイヤ、オレも見切り発車だったしな。もう過去のことだ。互いに水で流せたらそれで良いと思ってる。それとオレはブライと言うんだ。よろしくな、黒髪のネーチャン。それと、後ろのネーチャンもすまねえな」
相手が頭を下げるのならば、自身も頭を下げることは筋。だからこそ、ブライは後方にいるカナエに頭を下げた。それがブライのポリシーであった。
「もう良いわ。それより、アマネちゃんに聞くことがあるんでしょ? アマネちゃん、他にも予定があるのだし、手早く聞いてもらえると良いのだけれど」
アマネは頭を下げているブライをチラリと見た後、そっぽを向きながら、ブライに答えた。
「良いのか? オレ、アンタに負けちまったが……」
ブライは顔を上げた後、目をぱちくりさせて、アマネの方に視線を向ける。アマネは優しくブライの方を窺っており、いつでも尋ねてもくださいと言わんばかりの様子であった。
(リツ……)
ブライは念のため、リツにも確認してみる。リツからは 『大丈夫。聞いてみよう』 という回答が返ってきた。
「助かる。では本題なんだが、オレはどうやったら剣から人に戻れる?」
ブライの直球の質問に、アマネはブライ、もといリツの全身を眺めた。眺めた後のアマネは顎に手を置いて、幾ばくかの時間を思案してから口を開いた。
「戻れる方法はあると思っています。リツさんとブライさんに流れる魔力を見て、ブライさんのそれは封印術によるものであることは確信に変わりました」
その回答を聞いたブライの表情は明るくなる。
「そンじゃあ……」
「断言はできないですが、封印術を開放すれば可能です。解放条件はいくつかあるのですが……ブライさんは過去の記憶はありますか?」
アマネの質問にブライは首を横に振った。
「となると、封印の解放条件は記憶を取り戻すことかもしれません。封印術は何かしらの欠損とともに封じられる場合が多いですので」
「だとすると、元の身体に戻るには記憶を取り戻すことが重要なンだな?」
「ええ。おっしゃる通りです。ちなみにこれまで記憶を取り戻した経験は?」
「ねエんだが、そこのネーチャンと戦ったときにリツが俺の過去を見たんだ。おまけに戦っている場所もなんだかそれに呼応した感触もあるし」
アマネは頬に手をおいて、ブライの言葉をフムフムと噛みしめるようにしっかりと聞く。
「それは私も感じたわ。なんだか彼らに土地も反応しているような感じ。そこから、彼らの様子が変わった」
カナエもその異変に気付いており、ブライ達の会話に参加した。
カナエとブライの言葉を聞いたアマネは、両者の話を踏まえて自分の見解を話し始めた。
「では、リツさんはブライさんの過去を引き出すきっかけをお持ちなのかもしれません。加えて、勇者の土地もその条件に必要な項目かも」
『俺にそんな力が……』
剣を介してじっと聞いていたリツは、アマネの見解に驚きを隠せなかった。
「そんじゃあ、元の身体を取り戻すために、オレたちはいくつかある勇者の土地に巡業する……そういうことだな?」
「そうですね。それが最も可能性が高いと思います」
アマネからの見解を聞いたブライは、握った左拳を右手の平に打ち付けた。ブライが気合を入れるときに行うルーティンのようなものである。
「ヨシッ。そうとなれば、リツ、俺たちは旅の準備だな!」
ブライがリツに呼びかける。
『まったく……ブライが咄嗟に出てきた時は一瞬どうなるかとヒヤヒヤしたよ』
(不満か?)
『いや、もう慣れてきたよ。旅の準備ね。ひとまず、ガシスさんのところに行こうか』
(そうだな……おっと、ネーチャン達に礼を言わねえと)
ブライはアマネと、カナエの方を向いて、深々と頭を下げた。
「ネーチャン達、ありがとうな。ちょっくら勇者の土地を求めて旅してくるわ」
頭を下げているブライを見たアマネは、カナエの方を振り向いて、口に手を置きながら、クスリと微笑んだ。
「ええ、元の身体に戻れることを期待しております。それがこれからの厄災においても……」
アマネが何か説明しようとするが、そこで、カナエにトントンと肩を叩かれた。
「アマネちゃん、大事なところでごめんなさい。もうそろそろ……」
カナエがそう告げると、アマネはハッとしたように立ち上がる。
「お二方には本当に申し訳ないのですが……ここで」
アマネは非常に申し訳なさそうに頭を下げた。
「いや、十分だ。色々と助言をもらえて助かったぜ。本当にありがとうな!」
ブライは満面の笑みを浮かべながら、感謝の言葉を述べた。歯を見せて、口角を上げているその笑みは普段のリツからは想像もできず、カナエとアマネはリツとは異なる人物であることを再認識するのであった。
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