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7代目勇者ー勇者をクビになった俺が相棒となら、この世界を救えるのだろうか?  作者: 酒月 河須(さかづき かわす)
第1章 勇者としての始まり
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第38話 筋を通す

本日も投稿しました。よろしくお願いいたします。

『悪いな、リツ。どうやらオレはここまでだ』

耳元で聞こえるブライの声で、リツは入れ替わったのだと理解する。それと同時に、もどかしく、やるせない気持ちがあふれてきた。


(ブライ! あんた自身の過去のことを俺はまだ伝えられていない……)


『そうだなあ。あの世でゆっくりと思い出してみるわ。あと、悪かったな。今回の一件は俺のミスが大きいしな。オマエと約束していた……この……世界を……旅する……ことも……ムリそう……だ……わ』

リツが握っている剣の亀裂が徐々に大きくなる。その一方で、ブライからの声は徐々に遠のいていく。


(なんで勝手に悟ってるんだよ!)

リツは歯を食いしばりながら、心の中で叫んだ。


リツは分かっていた。この世界に来て、自分自身で解決できなかった様々な困難の傍らにはブライがいたことを。そして、そのブライがいたからこそ困難を乗り越えられたことを。


走馬燈の如く、リツはブライとのことを思い出していた。無数の想い出が高速で駆け巡る中、リツはブライと出会って間もない頃の事を思い出す。


当時、自分が勇者であることをブライに打ち明けた時のことであった。


「実は俺、勇者をクビになったんだ。大した力も無くてね」

その時のリツはそれを明かすことにかなりの勇気を要した。自分にとっては触れてほしくない部分の一つ。この世界に住む人間達から隔絶された存在である剣のブライであるからこそ、リツは話すことにそこまでの抵抗はなかった。


『ふーん。勇者ねエ』

ブライの淡泊な反応にリツは目を丸くした。


「えっ、それだけ?」

リツは思わず聞き返してしまった。


『そんなモンだろ。勇者リツとしては終わったのかもしんねエが、リツとしての人生はこれからじゃねエか』


その言葉を聞いた時、リツは目を丸くした。そういうことを言われたのは、これで二度目だったからだ。リツの中で徐々に胸のつっかかりが少しずつ薄らいでいく。


『そんなことより、オレは記憶と身体を取り戻すために世界を巡りてエんだ。なあ、行くだろ?』


「……やっぱりその契約は生きているんだね?」


『当たり前だろ? なんのためにあの時、オマエを救ったんだよ! なあ、いいだろ? オマエ、行商人をやっているようだし、できるんじゃねエか? それに、オマエが救おうとした世界がどんなところなのかを、見てみたいと思わねエか?』


リツは目を細めて、天を仰いだ。


「そうだね。ブライの言う通りだ。アンタにはあの時の恩がある。だから、付き合うよ。アンタの夢に」


「男に二言はねえからな。オレは約束を破る奴は許せねエから、絶対だぞ」


****************************************************


カナエからの強烈な一撃を目の前にして、ブライとのそんなやり取りが思い出された。そして、その時のやり取りを思い浮かべたこの瞬間、リツは剣の柄を握る力が自然と増していき、必死に押し返そうとするのであった。


「約束は守るものじゃないのかよ! ブライ!』

リツはただ必死に、少しでも押し返す力を自身の肉体からひねり出していた。


『リツ……』

思わぬ返しにブライは戸惑った。なぜなら、ブライにとって、そんな姿のリツを見るのははじめてだったから。

なぜそこまでの力を振り絞るのか? 何がリツをそこまでさせたのか? 己が失っていた過去の記憶がリツをそこまで掻きたてるようなものだったのか?


「何なの! 何を言っているの!」

カナエは目の前の青年の変貌ぶりに動揺を隠せない。その揺らぎで攻撃の手がわずかに緩む。その隙をリツは逃さず、渾身の一撃を跳ね返した。


剣は亀裂が走り、武器として使えるかも定かではない。加えて、服もズタボロで、血まみれ。立っているのが精いっぱいのリツであるが、その両目は必死に前を向いていた。


「全く……さっきから、らしくない。約束をお前から破るなんて……俺とした約束も……お前が俺に言っていた目標もこんなところで諦めるほど……生ぬるいものだったのかよ?!」

リツは今にも砕けそうになっている剣に向かって吠えた。


その姿を見て、ブライは理解するのであった。なぜこいつを俺が選んだのか? なぜ、こいつの声だけ聞こえるようになったのか?


こいつは己の過去を見たから、これだけ吠えているのじゃないのだ。リツ自身の培ってきた内なる意思の強さがそうさせているのだと。そして、そんなリツを俺は選んだから、今に至るということを。はじめて見たと思ったが、これはリツ自身がすでに持ち合わせていた気質なのだと。


ブライはこれまでのリツとのやり取りを思い返すと、思い当たる節はあった。

始めに浮かんだのは、リツをはじめて見かけたあの日のことであった。


リツは行商人としてガシスとともに無数に置いてあった剣を地道にくまなくチェックしていた。傍から見れば地味な作業で気にも止めないもの。 それでも、彼は真剣にその作業を行っていた。そして、大事そうに武器を取り扱うその姿に、ガシスは満足そうに眺めている。そして、ガシスの見ていないところでも、誰も見ていないところでもそれは変わらず。それ以外の掃除や運搬も何一つ、手を抜かない。見ているのは剣のブライのみ。


リツはどんな些細な事でも全力を尽くしていたのだ。


そんな姿が見かけていたため、ブライは剣としてリツとともに行動するようになった時に尋ねたのだった。


オマエはいつもそんなに必死なのかと。


その時のリツは、昔はそうでもなかったのだと答えた。


「昔の俺はなんでも中途半端で自分に嫌気がさしていた。でも、そんな俺でもガシスさんは俺を受け入れてくれた。だから、せめてガシスさんだけでも、応えたいと思えるようになったんだ。あの人は俺の命の恩人だから、あの人のために俺の持ちうるすべては尽くそうと決めているんだよ。そのためなら、人として道を反れるもので無ければ、手段は選ばない。だから、あの時に俺はアンタと契約を結んだ。それがガシスさんを救うことだったから。その契約の代わりにアンタの目標に付き合うなら仕方ないと思っているよ」


普段はあまり強い意思を見せないリツという男は、ここぞという時に一本の筋を通す。それは自分の中に秘められた強い意思に関係しているのだろう。


ガシスは何度か思うのだ。こういう見えない強さというものに惹かれたのかもしれないと。


そして、今。ズタボロでも、勇者カナエの前に対峙するこの男は自分に問いかけてくるのだった。


自分の内側にするりと入ってくるような強く、芯のある言葉を。


らしくない。

その言葉をブライは噛みしめていると、内側から熱いものが込み上げてくるのを感じた。


『そうだな……お前の……言う通りだ!』

二人の意思が同じ方向を向いた途端、リツの手の甲に刻印が浮かび上がる。すると、周囲の岩壁から光が放出されて、リツの全身に光が集まっていく。


「今度は何?」

戸惑うカナエの前で、リツの全身に光が帯びる。


『リツ。お前、何が……』


(なんだろう……俺にも分からない。でも、感じるんだ。何かが俺の中で生まれている気がする)

 リツが握る刀身にも刻印が浮かび上がる。


(そして、この刻印の文字を叫べと誰かが言っている)

リツは自分の中に流れ込んでくるものに応じるように、ソレを言葉にする。


「ランド・ヴァリアス!」

その瞬間、刀身がまばゆく輝きだし、二つに分かれた。


最後まで読んで頂き、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。

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