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7代目勇者ー勇者をクビになった俺が相棒となら、この世界を救えるのだろうか?  作者: 酒月 河須(さかづき かわす)
第1章 勇者としての始まり
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第36話 漢の過去 その①

本日も投稿させていただきました。よろしくお願いいたします。

「かなり燃えてンな」

ブライが急いで火元の河岸場にかけつけると、逃げ惑う人々と燃え盛る木造建築があった。


ブライは辺りを見渡す。複数の木造建築に飛び火し、その勢いを止めようと火消しが、隣の燃えていない木造建築を勢いよく破壊している。それと平行して、最寄りの川から水をくみ上げて消火にあたるものや、救助活動を行うものもいる。


「火元はドコだ? どこからの火の勢いが強い?」

ブライは激しい往来の中をつかつかと歩きながら、くまなく建物を見る。すると、他の建物よりも炎上面積が大きい建物を発見する。


(ここか)

ブライは即座に往来する人の中から、1人の男を少し強引に捕まえた。


「すまねえ。この建物はなんだ? ここが火元か」


「そうですが……あんたのその羽織……あんた……」


「ワリい。今は俺のことを話している余裕はねエんだ。この店はなんだ? 油売りか? もしくは酒店か?」


「いえ、ここは薬売りのお店ですが……」


「……分かった。アンタも早く逃げな」

ブライはそう言うと、パッと男を手放した。


「高価で持ち運びやすいものを売る店。それも火元の心配もほぼねえところが火事となると……決まってそうだ」

ブライはぐっと足に力を入れて跳躍し、建物の壁を蹴りながら、屋根まで駆け上がる。


『すんげえ身体能力』

その仕草にリツは目を丸くした。


「頭!」

ブライが屋根上に到着すると、ブライの配下らしき火消しの男達がブライに声をかけてくる。


「頭、火元ですが、おそらく……」


「わかってる。火盗の仕業だろ? ここで一番の高台はどこだ?」


「すぐそこの浅草高台です。出火してから船で逃げた形跡もなく、馬を使った形跡も無いです。おそらく火事から逃げる人々に紛れて、逃走したものかと」


「出火時刻は?」


「出火を確認してから15分前後。犯人がいればまだ遠くまではいけないはずです。ちなみに俺らはそれらしき男を見つけられてねえです」


「分かった。あそこの高台が一番高いか?」


「ええ」

 

火消しの男がそう答えた途端、ブライは屋根瓦をえぐらんとばかりに蹴り上げて、屋根から屋根へと跳躍し、高台へとたどり着く。


「ヨッと」

一声とともにブライは高台の壁を蹴り上げて、蛙の如く飛び跳ねながらよじ登った。


『本当にどんな身体能力してるんだよ……』

その様子を見ていたリツは思わず、ツッコミを入れてしまう。


「おいおい、なんだ、ありゃあ」

逃げ惑う人の一部もそれを見て、呆然とする中、ブライは高台の頂上へとたどり着いた。


「さてと……」

頂上に到着したブライは周辺を一望する。


『一体、登ってなにをするのだろう?』

リツはブライの行動に戸惑いつつも、その動向を注視する。

すると、ブライは手の平を水平にして額につけて、辺りを見渡し始めた。


『いやいや。そんなんで見つかるわけないでしょ!』

思わず、リツは叫んでしまった。ブライには聞こえることも無い声。空しい独り言のようなものであるにも関わらず、リツは叫んだ。それほどまでに理解に苦しむことであった。


「どこだ?」

ブライはぐるりと360度視界を回転させつつ、周辺一帯をくまなく観察し始める。


『昔から破天荒なんだな、この人は……』

リツは深いため息をついた。だが、それも束の間。ブライはピタリと動きを止めて、一点を見つめ始める。すると、リツの視界も急激に拡大し始めた。


『えっ、嘘でしょ!?』

困惑するリツとは無関係にブライの視界は大風呂敷を背負った2人組の男が映し出された。


「人目を避けて火元から離れているな……怪しい」

ブライは固定していた視点を外して、再度ぐるりと周囲を見渡した。


「……あの2人組以外に怪しい奴らが見受けられねえ。となると、ほぼ確定か」

ブライは2人組が逃走していた方角に身体を向けて、屈伸を行う。


「目測で一里ぐらい……すぐだな」

ブライは高台から飛び降りて、そのまま屋根に着地した。そこからブライは走り出し、2人組の男の方へ向かう。人並み外れた身体能力で約4キロの距離を、リツの体感にして5分ほどで走り抜けた。


『……』

人間を卓越した振る舞いを見せ続けられて、リツは言葉を発する気力も無くなっていた。


「よお、ニーチャン達。そのでっけエ風呂敷はなんだ?」

二人組の男達の頭上から、ブライは颯爽と登場する。男達は思わぬところからの登場に動揺した。


「あんたは……」

男達は警戒しつつ、ブライに尋ねた。


「火付盗賊改の無頼ブライっていうんだ。なあ、その風呂敷はなんだ?」

 

ブライの言葉を聞いて、男達の額から汗が流れ落ちる。


火付盗賊改。リツも日本史の資料で見たことがある、火盗を取り締まる役職のもの。


火盗とはリツの時代でいわば、放火魔を意味する。『喧嘩と火事が江戸の華』と呼ばれるほどに、江戸では火事が頻発していた。そして、木造建築物だらけのこの時代において火事は強大であり、放火は極悪であった。


「火事が出ているので、荷物をまとめて逃げようと……」

ブライとリツは男の返答にわずかな呼吸の乱れを読み取る。平静さを装っているが、動揺を隠しきれていないことを感じ取る。


「こんなに遠くまでか?」

ブライはドスの聞いた言葉で尋ねる。


「燃え……広がるかと」

それに対し男も答えるのだが、すでに怪しいのは明白。


「その風呂敷の中身を見せろ。 その辺から薬臭エんだ」

リツにもその臭いはブライ越しにかすかに感じ取れた。それはまさに生薬の臭い。リツもまた、確信する。


男達はとっさに逃げようとするが、ブライは即座に男達を捕縛し、抱えている風呂敷の中身を確認しようとする。風呂敷をわずかに広げると、中から生薬由来の植物や、反魂丹と書かれた袋が垣間見えた。


「決定的だ。観念しろ!」

ブライは男達に馬乗りになり、刀の柄に手を取る。しかし、背後からブライに迫る数人の人影が見えた。


(ばれているぜ、そンなの)

背後から迫る男達が音もなく、素早く刀をブライに向けて振り下ろしてくる。だが、ブライは振り返りながら、抜刀してそれを受け止めた。


「これでも、オマエらみてえなのを何年と相手してるんだ。覚悟しろ!」

ブライは奇襲する男達の一振りの勢いを流して、即座に構えた。反動でのけ反る男達。対するブライは奇襲を仕掛けた男達の、がら空きになった胴体に視点を合わせている。


勝利が確信されたものとブライは思った。それは戦況を眺めていたリツもそう思っていた。だが、その瞬間、視界の端で銀色の光が見えた。


『危ない!』

リツはその光が刀であることを理解する。そして、ブライが捕縛した男達の奇襲であることも。


「悪いな」

ブライはそう呟くと、もう一つ帯刀していた刀をもう片方の手で抜刀し、奇襲の一撃を防いだ。


『両刀!?』

リツはその光景に目を丸くした。


「くそっ」

男達は舌打ちしながら、ブライから距離を取った。


「俺が眼帯だから、死角を狙って来たのは良い線いっているぜ。今の一撃で致命傷だな。だが、俺は普通じゃねエんだ」


ブライはカチャリと両刀を構えた。

片方の目で狙いを定めるのは、刀を構えた8人の男達。ギリギリと刀の柄を握る力が強くなり、脚にも力を蓄え始めた。


構える男達は互いにちらりと目配せした後、すぐにブライに向けて襲い掛かる。

一方のブライは溜めに溜めた脚力を開放し、音すらも置き去りにする速さで男達の間をすり抜けていく。


男達の視界には刃が無数の半月を描いているのが、かすかに見えた。


(我流・二刀・蛮棺!)

ブライが心の内で念じると同時に二つの刀が織りなす、網目のように張り巡らされた無数の斬撃が十字に交差し、男達を切り刻んでいく。十字の斬撃の後には、男達の刃が砕かれて、胴体から十字の切り傷と、血しぶきが上がっていた。


ばったばったと倒れる男達にブライは刀身に付着した血を払いながら、呟いた。


「悪いが、オマエさん達の行った放火は処刑もんだ。ここでくたばってもらう」


「人殺しが。あんただって……俺らと……大差ねえだろ。元殺人犯……」

最後の悪あがきとして、倒れた男はブライにそんな言葉を送りつつ、息をひきとった。


「分かってる。たとえそれでオレの手が汚れても……俺はこの町を守るって決めてンだ。誰がなんと言おうと、オレはこの町を愛しているからな」

ブライは物憂げな眼で倒れる男達を眺めていた。この時、ブライの中に抱いている感情がじんわりとリツに流れ込む。


『……』

リツは無言でその状況を見ている。その胸の内は、さまざまな感情がない交ぜになって、キュっと締め付けられていた。


「くそっ……がっ」

男達は恨みを募らせながら、ブライを睨みつつ、息を引き取った。


ブライは死んだ男達に近づいて、息絶えた男達の見開いた目をそっと掌で閉じさせた。


「わかってる。こういう生き方しかできねエまでに追い込まれていたんだろ? 俺もお前らのようになっていてもおかしくなかった。だから、お前らの分は俺が背負う。お前らのことは俺が生きている限り、絶対に忘れねエから。それが俺の義務だ」


その言葉を聞いたリツは、ブライと出会った時のブライの言葉を思い出す。


(今の俺には記憶がねエ。だが、俺は絶対に記憶を取り戻さねえといけねエんだ。なぜかは分からねエが、そうで無ければいけねエんだ!)

なぜそこまで自分の過去の記憶に固執しているのか分からなかった。だが、その理由が今、この瞬間、多少は理解できたと思えた。


『ブライ……』

リツは胸のあたりでチクリと痛みを感じた。その時であった。突如として、見ていた景色が一気に靄に包まれてしまった。


『何、これ?』

謎の靄に動揺するリツ。だが、靄は徐々に晴れていき、岩壁に囲まれた渓谷が見えてきた。



(戻ってきたのか……)

リツは視点を動かそうとするが、動かない。自分の意思で動かない身体に、視界の隅に映る自分の身体。


リツは自分が剣の状態にあり、自身の身体はブライが扱っていることを理解する。



最後まで読んで頂き、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。

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