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7代目勇者ー勇者をクビになった俺が相棒となら、この世界を救えるのだろうか?  作者: 酒月 河須(さかづき かわす)
第1章 勇者としての始まり
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第33話 勇者カナエとの戦い

本日も投稿させていただきました。よろしくお願いいたします。

「へっ、こんな一方的な形で誰が納得できンだよ!」

一方のブライも剣を構えつつ、カナエに向けて叫んだ。


「……そう。覚悟はできているのよね、悪霊?」

カナエはフッと息を吐き出すと、レイピアに莫大な光のオーラを収束させる。


『ブライ……あれは絶対に避けるんだ!』

リツからのただならぬ声を聞いたブライは、即座に風の魔力を脚に纏わせた。


「フーガ・サイクリカ(風の空間保持)!」

ブライは落下する足元を蹴り上げる。それと同時に、カナエは歩行する標的に向けて術を放つ。


「リゼオス・レイマギア(光聖の強光線)」

まばゆい光の熱線がレイピアから一直線にブライへ向けて射出される。標的は1キロ先のブライ。しかし、1キロなんて距離は意味をなさないほどに光線は早く、コンマ数秒という単位すらも満たさない。


レイピアの切っ先から射出された光線は徐々に放射状に広がり、ブライの手元に届くまでの間に、巨木の幹に匹敵するほどの直径に達する。そして、その光線は瞬く間にブライの目と鼻の先まで到達していた。


(くそっ……)

その間、ブライは上空で足を強く蹴り上げながら身体をねじり、回避を試みる。だが、運悪く光線の一部が脇腹をかすめてしまう。


一瞬だけブライは苦悶の表情を浮かべた。

無理もない。光線に触れてしまった脇腹からは焼け焦げた肉の臭いと激しい痛みが襲い掛かる。


(おいおい、再生もままならねえぞ。おまけに眩しいし、広がって射線を読み切れねえ)

ブライの額から大粒の汗が流れ落ち、肉体の再生に意識を向けようとするが、そんな暇をカナエは与えさせない。カナエはレイピアから光線を連続で射出した。


ブライは空中を足場として、上下左右に身体を翻しながら移動し、無数の光線の直撃は免れる。しかし、ブライにとってその状況は無闇に体力を消耗するだけの不利なだけであった。


「埒があかねえ」

ブライは回避しつつ、肉体と剣に魔力のオーラを集中させた。


(リツ、ワリイがこの身体に負担をかけるぞ)

ブライはリツに声をかける。剣の玉が一瞬だけ光を帯びる。ブライは合意と受け取り、即座に剣を鞘に納めた。


「奥義・鍛身復錬たんしんふくれん


剣に溜めていたオーラが鞘を伝って、ブライの全身を覆う。ブライはカナエをチラリと見た後に直進し始めた。


「この中を……正気なの?」

カナエは予想外の手段に出るブライに少しだけ戸惑ったが、すぐに思考を整理して攻撃の手を強めた。


一方のブライは最小限の動きで光線の直撃を避けようとするが、先ほどの回避とは異なり、直撃する面積は大きくなっている。かすめることですら、ブライでも激痛を伴うもの。面積が大きくなれば致命傷になりかねない。


カナエから見れば、ブライに攻撃は直撃しているように見えた。それにも関わらず、ブライはこちらに向けて接近している。そのことにカナエの中で動揺が広がり始めていた。


(嘘!? 直撃はしているのに、どうしてあんなに動けるの? いや、私には視認できていないだけで回避している? それとも肉体の強度を上げている? それとも特攻?)


その答えは攻撃を受けた箇所を膨大な魔力で超回復させる技術で、諸刃の剣であった。ブライの特性である再生能力を極限にまで引き上げるものであり、致命傷ですら瞬く間に回復する技術。そして、回復するたびにより自身の強度をより高められる、いわば、刀を叩き上げる、鍛錬という文字から由来した技。

 

だが、そんな強力な技であるが故に、ブライは無傷の状態で直進を続けられているようにカナエには見えていた。


『ブライ、大丈夫か!? 魔力はまだあるか?』


(ああ、まだある)


『この術は強力だから、すぐに魔力が枯渇する。カナエさんのところに辿り着いても、一撃を放てるだけの魔力は残さないと』


(言われなくても分かっている。その位の魔力は残した状態でたどり着ける。そうじゃなければ、こんな賭けには出ねエ)

ブライは瞬く間にカナエとの距離を縮めて、攻撃の射程圏内に入った。


目と鼻の先までブライが接近してきたことで、カナエは唇を噛みながら、レイピアの切っ先を降ろした。狙いを定めるにはあまりにも近すぎるためだ。それはつまり、攻撃の射程圏内を外れてしまっていたことを意味していた。


反撃するなら今しかない。ブライは残り少ない魔力をつぎ込んで、鞘から剣を引き抜いた。


「剣技・跋縷摩刺亞バルマシア!」

ブライは無数の斬撃を飛ばした。斬撃は縦、横、斜めと多種多様に射出されて、飛んでいく方向や軌道も少しずつ変化させている。


「リゼオス・トラヴィス(光聖の移動術)!」

カナエはとっさに術を発動して回避しつつ、その場から距離を取ろうとする。


だが、ブライは逃がす気は毛頭ない。畳みかけるように斬撃を連続で生み出し、カナエに向けて放ち続ける。


怒涛の一撃に、カナエもすべては避けきれなかった。2,3つの斬撃がカナエに直撃しようとする。


「リゼオス・バルト(光聖の盾)」

カナエは四方に光の盾を顕現させた。その盾にブライの斬撃が衝突する。


「ブチ破りやがれ!」

1撃目の斬撃で盾は強い衝撃を加えられて、2撃目の斬撃で亀裂が走る。そこに留めの3撃目で盾は割れて、飛散する。


盾が崩壊した瞬間をブライは逃さない。


「マタタギ(又多義)!」

ブライは飛び散る盾の破片の中を煙のようにふわりと移動し、カナエに向けて剣を振るった。


「リゼオス・マキア(光聖の強化)!」

後手に回ってしまったカナエはレイピアに光のオーラを纏わせて、ブライの一撃に相対した。

 

初めて両者の剣が交わる。その瞬間、鈍い轟音と共に衝撃波と風圧が生じ、大地と大気が震えた。


「ぐっ」

刃の擦れる金属音。単純な力勝負ではカナエにとって分が悪く、少しずつ抑え込まれる。


ブライはここを勝機と思い、温存していた力のすべてを剣に込めて、ひたすらに剣を振るい始めた。


「オラオラ!」

雄叫びをあげながら、ブライはカナエに反撃する暇も与えないほどの連撃を仕掛け続ける。それにカナエは凌ぐようにレイピアで攻撃を流し続ける。


「しつこい!」

カナエは攻撃を流し続けると同時に、その所作の一連の流れでレイピアの切っ先をブライに向ける。ブライはそれに気づき、切っ先から自分の胴体をずらす。その瞬間、光線が射出される。


両者、攻防一体の駆け引きが繰り広げられるが、ブライの方がわずかばかり優位に立っていた。


「悪霊が……」

ブライの攻撃に歯を食いしばって、凌ぎ続けるカナエには額に汗がにじみ、疲労が現れていた。一方のブライはジリジリと追い込んでいるが、それでも追い詰めるには時間を要する状態である。


それはつまり、ブライにとって厳しい状態であった。


『ブライ、魔力がもう……』

ブライは魔力が枯渇するカウントダウンは入っていた。そして、それはすぐに訪れて、ブライを纏っていた魔力が消失した。


「くそっ……」

顔をしかめるブライ。相対するカナエはその隙を無論、見逃さない。


「レブリア(脚撃)!」

カナエは渾身の蹴りをブライの腹部に放り込んだ。

ブライは苦悶の表情を浮かべながら、遥か彼方にまで吹き飛ばされた。


「がはっ」

吹き飛ばされたブライは遠方の岩壁に直撃し、ぐったりと前のめりに倒れた。


『ブライ!』

リツはブライに呼びかける。


(スマン。しくじった)

ブライはリツに謝罪する。


『もう良いよ! 俺がこの場を収めるから。早く変わって!』

リツはブライに大声で呼びかける。


(ああ……)

一方のブライは急激に口数が少なくなる。


『どうしたの? 早く変わって!』

リツはブライの異変に声が荒ぶる。しかし、ブライからの返事が無い。


『ブライ、どうしたの! 返事を……』

この時、ブライにはリツの声が徐々に小さくなっていた。加えて、視界もぼんやりと暗くなっていき、意識も混濁していた。


『なんだ。これ……一体』

その異変はリツにも現れる。彼が剣を介して見えていた景色も暗幕が下ろされたように徐々に暗くなっていく。加えて、眠気も襲い掛かってきた。


『これは……死ぬ……のか』

リツとブライの視界は真っ暗になる。ただ遠くにわずかな光を残して。


最後まで読んで頂き、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。

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